安全保障関連法案は2015年7月16日午後の衆院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。政府・与党案の採決では次世代の党以外の野党が議場を退席し、大きな混乱はなかった。対照的だったのが前日の7月15日午後に行われた衆院平和安全法制特別委員会の採決だ。
数の上では為す術がない野党議員は、あらゆる方法で抵抗を試みた。特に民主党議員は、プラカードを持って反対をアピール。発言内容はほとんど怒号でかき消されてしまったが、NHKのマイクは辻元清美衆院議員の「ダメです!」という叫び声を明瞭に拾った。ただ、法案に賛成するメディアは、こういった行動は「テレビ映像を意識」したもので、強行採決を「演出」するためのものだと批判している。
「強行採決反対!!」のプラカードは青と赤の2パターン
NHKは委員会採決の様子を正午のニュースを延長する形で伝えた。委員会室では、民主党議員がカメラに向かってプラカードを掲げ反対を訴えた。プラカードの種類は、
「強行採決反対!!」
「アベ政治を許さない」
「自民党感じ悪いよね」
の大きく3種類。「強行採決反対!!」は青と赤の2パターンが確認できた。議員個人が作ったものではなく、党として同じデザインのプラカードを大量に作って配ったようだ。
議場は怒号につつまれたが、際立っていたのが辻元氏が涙声で、
「委員長ダメです!やめて!お願い!委員長!委員長!」
などと叫ぶ様子だ。カメラは採決の手続きを進める浜田靖一委員長をクローズアップしたが、委員長席の前に陣取った辻元氏が、浜田氏に対して「お願い!」と拝むような仕草も映し出された。結果として辻元氏は、民主党議員としては多くのメディア露出を果たすことになった。
プラカードを議場の床や机の上に放置したまま
こういった民主党の対応を、読売新聞は7月16日付の社説で、
「疑問なのは、多数の民主党議員らが採決時に委員長席に詰め寄って怒号を上げ、与党の『強行採決』を『演出』したことだ。カラフルな文字の紙を掲げるなど、テレビ映像を意識した行動だった」
と批判。それ以外にも民主党への批判が出た。散会後、プラカードを議場の床や机の上に放置したまま立ち去った民主党議員がいたからだ。民主党の長島昭久衆院議員は、この点について
「申し訳ございませんでした。野球観戦のご家族以下のマナーでした。反省しております」
とツイッターで陳謝した。ただ、この書き込みは「野球ファンを馬鹿にしている」という批判を呼び。長島氏は再び謝罪する羽目になった。
「すべての野球ファンの皆さまにお詫びし、野球観戦を揶揄するかのような余りにも軽率な発言を撤回します。申し訳ございませんでした」
なお、この「プラカード戦法」は、野党時代の自民党も実行したことがある。どの野党も、必要に迫られてこういった手段を選ばざるを得なくなるようだ。それ以外に有名な事例としては、1992年に平和維持活動(PKO)協力法が成立した際、社会・共産両党が法案の賛否を示すための投票箱まで極端に遅く歩いた「牛歩戦術」や、96年の「住宅金融専門会社(住専)国会」で、新進党が衆院予算委員会前に議員や秘書を張りこませて審議を始められなくした「ピケ戦術」が知られている。