「電気とガスは選べる時代へ」――。電力とガスの小売り自由化の「総仕上げ」となるエネルギー関連法案が国会で成立した。2016年4月にスタートする電力小売りの全面自由化に加え、2020年4月には大手電力会社の送配電網を発電部門から切り離す「発送電分離」が実現する。
都市ガスについては2017年に小売りが全面自由化、2022年に大手3社のガス導管が分離される。大手が独占していた送配電網とガス導管は別会社となり、「新規参入者に公平なインフラ施設」となることが期待されている。東京電力の福島第1原発事故を受け、政府が進めてきた一連の電力・ガスシステムの改革がこれで完成するが、真価が問われるのはこれからだ。
送配電網やガス導管の使用料金である「託送料金」が明確に
これまで東京電力、関西電力など地域独占だった電力会社を、消費者が新規参入者(新電力)を含めて自由に選べるようになるメリットは大きい。家庭向けの電力小売りをめぐっては、大手電力会社に対抗するガス会社、石油元売り会社だけでなく、通信会社やIT企業、総合商社なども参入に意欲を示しており、16年春以降、多様なサービスが誕生するのは間違いない。これに対抗し、東京電力と関西電力は、それぞれ大手の携帯電話会社と業務提携し、来春にも電気料金と携帯電話料金をセットで割引くサービスを始める方向で調整を進めている。
今回、電気事業法とガス事業法が改正され、電力会社の送配電網とガス会社のガス導管が本体から分離、独立することが決まった意義は大きい。送配電網やガス導管の使用料金である「託送料金」のコスト計算が明確になり、さらなる料金の引き下げが期待されるからだ。
電力の場合、これまでも新規参入者が大手電力会社の送配電網を利用し、託送料金を払って工場やデパート、オフィスビルなどに電力を小売りすることは可能だった。しかし、「託送料金には発電など送配電以外のコストも算入されているのではないか。発電部門と送配電部門を切り離さないと算定根拠がわからず、託送料金が透明にならない」との批判が強かった。
地域独占のため、電力会社間に壁があり、これが弱点
2000年代初頭には経済産業省が欧米先進国の先例を基に発送電分離を目指したが、電力会社は「一体運用でなければ安定供給に支障が出る」などと激しく抵抗し、電力の全面自由化が見送りになった経緯がある。
しかし、東電の福島第1原発事故後、電力会社の地域独占に対する批判が高まり、当時の民主党政権が電力会社の抵抗を押し切り、一連の電力システム改革を進めた。
これで法改正など一連の準備は整ったことになるが、電力システム改革の実現には、なお課題が残る。一連の改革は(1)広域系統運用の拡大(2015年4月)、(2)小売り参入の全面自由化(2016年4月)、(3)発送電分離、小売り料金規制の撤廃(2020年4月)――の3段階で進んでいる。現在は(1)の第1段階で、これまで大手電力会社の管内ごとに行われていた電力需給の管理を、地域を越えて効率的にやり取りする「電力広域的運営推進機関」が2015年4月に発足したばかりだ。
同機関の新設は、原発事故後、被災した東京電力と東北電力に、周辺の北海道電力や中部電力、関西電力などから電力をうまく融通できなかった反省に基づいている。北海道の風力発電など再生可能エネルギーを首都圏に届けるためにも、大手電力の垣根を越えた需給の調整が必要となるだけに、同機関の真価が問われることになる。
しかし、今なお「大手電力会社間の垣根を越える連系線の使用は限定的だ。同機関は設立されたものの、大手電力会社の支配力が大きい組織となっており、透明性のある運用が行われるか大きな疑問がある」(電力料金のコンサルティング会社)との批判もある。
現在の電力会社は地域独占のため、電力会社間に壁があり、中部電力と東京電力の東西間で融通できるのは120万KW、北海道と本州は60万キロワットに限られている。専門家は「今はキャパシティーが貧弱で、市場分断が起こっている」と指摘。東京-中部間の連系線は300万キロワット必要とされるが、実現の見通しは立っていない。
今回成立した法律に基づく電力システム改革で、新電力の参入や再生可能エネルギーの導入が進み、狙い通り電気料金の引き下げと安定供給が両立できるのか。壮大な実験がいよいよ始まることになる。