マスコミからバッシングを受けた百田尚樹氏の発言の中で、大手マスコミが事実上「無視」した部分がある。それは総務省から免許を受けて放送事業を行っている、地上波テレビの「既得権」への批判だ。
評論家らは「これこそ組織的な言論統制だ」と指摘している。
「地上波の既得権をなくしてもらいたい」
「沖縄2紙をつぶさないとあかん」と発言し、物議をかもした2015年6月25日の勉強会で、百田氏は地上波放送するテレビ局についても言及していた。自民党の大西英男議員が「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番」と言ったことに対し、
「新聞よりもテレビ。地上波の既得権をなくしてもらいたい。自由競争なしに50、60年も続いている」
などと発言したと東京新聞や朝日新聞が報じている。
ただ、NHKや民放各局はもちろん報じず、新聞各紙も無視するか、大きくは取り上げなかった。「新聞よりもテレビ」と百田氏の批判の矛先が明確であるにもかかわらずだ。
こうした点を経済評論家の池田信夫氏は6月28日のブログで「これこそ組織的な言論統制」と批判した。
そもそもテレビ局の放送事業は、総務省から周波数を割り当てられ、免許を受けて行われている。これを「UHF帯だけで30チャンネル以上とれる周波数で実質的に7局の寡占体制が続いている」と指摘。百田氏の発言を黙殺したテレビ局について、
「しょせんテレビ局なんて、役所の守ってくれる利権にぶら下がって商売している規制産業だ。こういうときだけ『言論の自由』を振り回して、正義の味方を気取るのはやめてほしい」
と切って捨てた。
テレビ局が支払う電波利用料は事業収入の1%以下
テレビ局の既得権として、テレビ局が総務省に支払う電波利用料の安さはしばしば問題になっている。総務省によると、13年度の主なテレビ局の電波利用料はNHKが18億7800万円(事業収入は6517億円)、フジテレビが3億9920万円(同3468億円)、日本テレビが4億3260万円(同2277億円)。巨額の事業収入から見ると、電波の「仕入れ値」はNHK0.28%、フジ0.11%、日テレ0.18%しかかかっていないのだ。
電波利用料の負担額について、大阪大名誉教授で情報経済研究所の鬼木甫所長は「市場価値の何十分の一で、不当に安過ぎる」と指摘。事業者が電波の利用権を競り落とす「電波オークション」を導入すべきだと提案している。
「電波オークションを総務省が実施すれば、今の何倍もの利用料が収められるはず。先進国で導入されていないのは日本ぐらいだ。新規参入ができず、テレビ局は大きな利権に囲まれている、と言える」
という。
百田氏が指摘した「既得権」について、テレビはもちろん新聞でも大きく報じられないのは、両者間に資本関係がある「クロスオーナーシップ」があるためだ、とも指摘する。
「朝日新聞とテレビ朝日、読売新聞と日本テレビなど、各紙と各局の間には資本関係がある。お互いの不都合なことを報じない『同じ穴のムジナ』だ」
クロスオーナーシップも多くの国で禁止されているが、問題視されていないのは日本ぐらいだ。