かつての社会党による「乱闘国会」を思い出させるような民主党の国会対応が波紋を広げている。
労働者派遣法改正案をめぐり与党は2015年6月12日の衆院厚生労働委員会で採決を目指したが、この方針を把握した民主党が体を張って渡辺博道委員長(自民)が委員会室に入るのを阻止しようとした。もみ合いで渡辺氏は首を負傷し、携帯電話も紛失した。
執行部からは「見過ごして法律をどんどん通してしまうことが果たして国益にかなうのか」などと「実力行使」を容認する声も出ている。採決強硬に抵抗するための数少ない手段だと訴えたいようだが、国民の理解が得られるのは難しそうだ。
事前に「委員長にとびかかる」といった指示入りの紙を配布
厚労委員会開会に先立ち、委員会室前には約30人の民主党議員が集結。渡辺氏の入室を阻止しようとした。渡辺氏は怒号の中、もみ合いになりながら入室し、5分遅れで審議が始まったが、民主党議員は着席せずにヤジを飛ばすなどした。
フジテレビによると、民主党は事前に国会内の見取り図や「委員長にとびかかる」などといった指示が書かれた書類を関係議員に配布。「実力行使」が念入りに計画されていたことが明らかになっている。「実力行使」の結果、渡辺氏は頸椎捻挫で全治2週間の診断を受けた。
岡田克也代表は同日午後の会見で、審議拒否の背景について聞かれ、
「最大の原因は、厚労委員会での『いきなりの採決』という情報が伝わったこと。我々もできるだけ審議に参加したいと考えているが、時にはやはり、こういったこともしっかりとやっていかないと、『多数で押し切ればいい』という今の自民党執行部ですから、それに対しては、こちらもこういったやり方も場合によってはやむを得ない」
と話した。実力行使について直接正当化したわけではないが、審議拒否はあり得るとの立場だ。これに対して、長妻昭代表代行は6月14日朝にフジテレビで放送された「新報道2001」で、「実力行使」はやむを得ないとの見方を示した。
法案がどんどん通ると「野党の職責が果たせなくなる」
フジテレビの平井文夫解説副委員長が、
「ああいう乱闘国会が国民に理解されないというのは、多分民主党の人も分かっていると思う」
と民主党に苦言を呈したのに対して、長妻氏は、このように釈明した。
「やはり一気呵成に数の力でほとんど議論なしで採決するとか、あるいは安保委員会でも、はぐらかし答弁を分かっていながらずーっとされる。その時に野党がお行儀良く座って『まあ、不十分だけどいいか』ということで見過ごして法律をどんどん通してしまうことが果たして国益にかなうのかどうか」
長妻氏がその根拠として挙げたのが「野党の職責」。長妻氏の発言は、民主党の一連の行動が「一定のルールの範囲内」と主張しているともとれる内容だ。
「ひとつの一定のルールの範囲内で、それ(政府の答弁)はおかしいときはきちっと言って、いったん止まって、そして大臣の答弁を引き出すなり、法律を1歩止まって考えていただくなりしないと、どんどんどんどん通ってしまって、野党の職責が果たせなくなる。将来の歴史家が議事録を見た時に『野党はなんか、いい加減な答弁でもどんどんどんどん通してどうなってるんだ』と歴史の断罪を受けかねない」
菅官房長官「国会審議以前の問題」「民主国家にとって、あるまじき言語道断のこと」
菅官房長官は一連の民主党の行動について、5月15日午後の会見で、
「そうしたことが事実であるとすれば、国会審議以前の問題。言論の府において、暴力を行使するようなことをあらかじめ計画・予定をしているということが、もし事実であれば、この民主国家にとって、あるまじき言語道断のこと」
などと厳しく批判。長妻氏の発言についても、
「言論の府において暴力を行使するようなことを正当化すべきではないと思う」
と切り捨てた。