日銀が追加緩和に踏み切れない理由 政策委員会に提案しても可決されない可能性がある

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   日銀は2015年4月30日の金融政策決定会合で、物価上昇率が目標の2%に達する時期の見通しを、従来の「2015年度を中心とする期間」から「2016年度前半」に延ばす一方、追加金融緩和は見送った。

   黒田東彦総裁は「物価の基調は着実に改善しており、(後ずれは)原油価格下落の影響」として追加緩和の必要性を明確に否定したが、原油価格の動きは日銀の従来の想定からほとんど変わっておらず、物価の基調自体が怪しくなっていることは明白だ。日銀はなぜ、追加緩和に踏み切らないのか。

  • 日銀は大きな岐路を迎えそうだ
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近い将来、買える国債が不足し、日銀の買い入れが困難に?

   大きな理由の1つは、国内外から日銀の大規模な金融緩和、いわゆる「異次元緩和」に伴う急激な円安への懸念が強まっていることだ。2014年10月の追加緩和後、急速に進んだ円安を受け、国内では輸入物価の上昇が家計や中小企業の負担を増しているとの批判が高まった。統一地方選を控えていた安倍晋三政権も、甘利明経済再生担当相が2%の達成時期について「余裕をもってよい」と述べるなど、日銀が追加緩和に突っ走らないよう、暗にブレーキをかけた。また、米国ではドル高による企業業績悪化懸念が強まっており、日銀が再び追加緩和に踏み切れば「円安誘導」との批判が高まりかねない状況だ。

   2つ目の理由は、異次元緩和に伴う副作用の心配が高まっていることだ。日銀の大量の国債買い入れにより、債券市場では国債が品薄になり、「近い将来、買える国債が不足し、日銀の買い入れが困難になる」(アナリスト)との見方が出ている。

   日銀幹部はこうした見方を否定するが、歴史的な低金利で金融機関が運用難に苦しんだり、金融機関同士の国債の売買が細ったことで市場の価格決定機能が衰弱し、金利が急騰しやすくなるリスクが高まっているのは事実。株式市場でも、日経平均株価が一時、2万円をつけたが、活況を支えているのはETF(上場投資信託)を買い入れている日銀や、株式運用を増やしたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)といった公的機関との見方は強い。市場のゆがみが大きくなれば、後々の反動も大きくなる恐れがある。

秋以降も物価上昇ペースが加速しなければピンチ

   3つ目の理由は、日銀の最高意思決定機関である政策委員会の中でも、再度の追加緩和に対する否定的な意見が根強いためだ。2014年10月の追加金融緩和は、賛成5人、反対4人の1票差でかろうじて可決された。反対した委員のうち、木内登英審議委員は4月30日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和に伴う副作用の懸念が強まっているとして、金融緩和のペースを徐々に減速することを提案。木内氏の提案は否決されたものの、他の政策委員会のメンバーからも、追加緩和をしてまで2%の達成を急ぐよう訴える声は出ていない。黒田総裁は「物価の基調が変わってくればちゅうちょなく政策の調整を行う」と強調しているが、「日銀執行部が追加緩和を提案しても可決されない可能性がある」(エコノミスト)のが実情だ。

   物価目標の達成時期の遅れを認めながら、日銀は追加緩和に踏み切ることもできず、「原油価格下落の影響がはく落すれば、物価は再び伸びを強める」(黒田総裁)という楽観的なシナリオにすがるしかないように見える。裏を返せば、原油価格下落の影響が薄れる15年秋以降も物価上昇ペースが加速しなければ、日銀は申し開きのできない窮地に追い込まれることになる。その時、内外の批判を押し切って追加緩和に踏み切るのか、それとも異次元緩和の限界を認めて現実的な政策に移行するのか。黒田日銀は大きな岐路を迎えそうだ。

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