大学生の就職人気企業ランキングに異変が起きている。男子学生に人気の就職先が、文系、理系を問わず、上位4社までを「総合商社」が独占してしまったのだ。
「留学など興味がない」「海外には行きたくない」という「内向き」学生が増えているといわれるなか、まして理系男子がいま、なぜ総合商社なのだろう――。
理系男子、三菱商事が初の1位に
2016年卒業予定の大学生が選んだ「就職人気企業ランキング」によると、理系男子で三菱商事が1978年の調査開始以来、初の1位を獲得した。就職情報会社のダイヤモンド・ヒューマンリソースが2015年5月12日に発表した。三菱商事は13年には7位、14年には3位と、じわじわランクを上げてきた。
2位には三井物産が14年の12位から大きくランクアップ。3位に住友商事、4位には6位から上昇した伊藤忠商事が入った。じつに上位4社が総合商社で、2014年に1位だった日立製作所は6位に、2位だった東芝は5位に後退した。
以下、7位にこれも総合商社の丸紅が入り、8位に東日本旅客鉄道(JR東日本)、9位が東海旅客鉄道(JR東海)、10位にはサントリーグループが入った。
就活に詳しい、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は、「理系男子で、これだけ総合商社が上位に並ぶのはめずらしいこと。初めてかもしれない」と驚く。
一方、文系男子もトップ10のうち、6社が総合商社。1位の三井物産は14年の10位から躍進。2位に伊藤忠商事、3位が三菱商事、4位に住友商事と続く。7位に丸紅、8位には豊田通商が前年の11位からトップ10入りした。
金融機関は、東京海上日動火災保険(5位)、三菱東京UFJ銀行(6位)、三菱UFJ信託銀行(9位)、みずほフィナンシャルグループの4社。トップ10は、すべて総合商社と金融機関だった。
総合商社の人気について、調査したダイヤモンド・ヒューマンリソースは「いまの売り手市場を象徴した出来事」とみている。「総合商社の採用枠は、金融機関などと比べて決して多くはありません。そうした中で、学生に『狭き門であってもトライしてみよう』という気持ちがあるのではないでしょうか」と話す。
企業側が理系学生向けに、熱心にPR活動を行った効果もあるようで、「商社というと海外のイメージがありますが、必ずしも海外だけではありません。幅広く、いろいろな仕事ができる点が学生に評価されているようです」(前出の石渡氏)という。
もちろん、「高収入」も人気の要因の一つ。トップ4の総合商社の平均年収は、いずれも1300万円前後にのぼる。
モノづくり企業は凋落、「理系男子は、いまやメーカー不信」
就職人気企業ランキングを見てのとおり、かつて花形だった電機大手のソニーやパナソニック、シャープなどの名はトップ10からすでに消え、鉄鋼などの重工業もない。人気の上位で頑張っているのはトヨタ自動車などの一部に過ぎず、モノづくり企業の凋落ぶりが目立つ。
前出の石渡嶺司氏は、「理系男子は、いまやメーカー不信に陥っています」という。商社人気の陰には、理系男子が志望する就職先企業の選択肢が狭まっているという事情があるのかもしれない。
また最近の就活について、石渡氏は「理系に限らず、最近の学生はニュースを見ないなどと言いますが、それでも企業の業績はチェックしていますし、たとえばテレビCMなどの露出度の減少などには敏感です。意外かもしれませんが、企業の就職人気ランキングはニュースをしっかり反映しています」と話す。
たとえば、2015年の理系女子の1位はサントリーグループ、2位がロッテグループ、3位は明治グループだった。以下、森永乳業(4位)、森永製菓(5位)、山崎製パン(6位)、日清製粉グループ(7位)、グリコグループ(10位)がトップ10入り。じつに8社が食品・飲料系で、あとは伊藤忠商事(8位)と資生堂(9位)だった。
石渡氏は「食品・飲料系には、将来は企画職に就けるというイメージが強くあります。たとえば『キリンフリー』などは女性社員が提案、開発した商品として知られていますよね。テレビCMの露出度も多く、親近感が湧きやすいこともあります」と説明。理系女子の食品・飲料系人気もうなずけるという。