日銀審議委員の後任は「円安」派 無難な人選だが官邸サイドの思惑は貫かれた

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   政府は衆参両院の議院運営委員会理事会で、2015年6月末に任期が満了する日銀の森本宜久審議委員の後任に、トヨタ自動車元副社長で現相談役の布野幸利氏を充てる人事案を提示した。

   大規模な金融緩和を主張する「リフレ派」の抜てきを予想する向きもあったが、東京電力元副社長の森本氏と同じ産業界出身者の枠が維持され、「無難な人選」との見方が多い。ただ、官邸周辺では以前から「円安に肯定的な人材が後任にふさわしい」との声が根強くあり、円安メリットを享受する自動車業界からの起用になったようだ。

  • 自動車業界出身の審議委員は初めて
    自動車業界出身の審議委員は初めて
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リフレ派の女性は見当たらず

   日銀が追加緩和を決めた昨年10月の金融政策決定会合では、メンバーである政策委員9人のうち、森本氏を含む4人が反対し、1票差での可決という異例の事態になった。「森本委員の古巣の東電は、円高の方が燃料調達に有利。だから円安を招く追加緩和に否定的なのではないか」。官邸関係者は苦々しい表情で語っていた。

   森本氏が古巣のために追加緩和に反対したとはさすがに考えられないが、官邸周辺はこの薄氷の決定をきっかけに、アベノミクスの「第一の矢」である大規模な金融緩和路線を安定的に継続するためには、リフレ派の投入が必要との危機感を強めていったようだ。実際、3月に退任した宮尾龍蔵前審議委員の後任には、リフレ派の論客として名高い原田泰・元早稲田大教授が選ばれた。

   原田氏の人事案が国会に提示されたころ、水面下では森本氏の後任選びが本格化していた。リフレ派の学識経験者のほか、安倍晋三政権が掲げる「女性活躍推進」に歩調を合わせて女性の登用も模索されたが、「リフレ派の女性はなかなか見当たらない」(政府関係者)。政策委員のうち2人を占めてきた産業界出身者の枠が減ることに経済界の反発も予想され、結局は産業界から人選を進める流れとなった。

自動車業界からは初めて

   ただし、官邸が譲れなかったのは「円安否定論者ではないこと」(関係者)。トヨタをはじめ、自動車メーカー各社は円高局面の際、日本のものづくりの「六重苦」の一つに円高を挙げ、円高を是正する政策を求めていた。日銀の異次元緩和とその後の追加緩和で急加速した円安の追い風を受け、トヨタ自動車の足元の業績は絶好調だ。布野氏の金融政策に対する考え方は明らかになっていないが、「少なくとも現在の緩和路線を支持するだろう」(アナリスト)との見方が強い。金融緩和の恩恵を最大限に受けているトヨタの関係に白羽の矢が立ったのは自然な成り行きだったといえる。

   これまで産業界枠の審議委員の出身母体は銀行や商社、エネルギー業界などで、自動車業界は初めて。布野氏は海外駐在経験も長く、トヨタのグローバル戦略を推し進めた国際派で、世界経済の知見も豊富だ。衆参両院で人事案が同意されれば、布野氏は7月から金融政策決定会合に加わることになる。黒田東彦総裁の「綱渡り」の金融政策運営への援軍となるのか、そのスタンスが注目される。

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