「過剰な演出」多数でも「やらせ」ではない NHK「クロ現」報告は納得できる内容なのか

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   NHK報道番組「クローズアップ」現代に「やらせ」があったとされる問題で、NHKは2015年4月28日、調査委員会(委員長・堂元光副会長)による調査報告書を発表した。取材を担当した大阪放送局の男性記者(38)の停職3か月を筆頭に、大阪報道局・報道局専任部長の減給など計15人の処分が決まった。籾井勝人会長(72)ら役員4人も報酬の一部を自主返納する。

   「クロ現」をめぐっては、番組内で「ブローカー」として紹介された男性A氏(50)が「記者からブローカーを演じるように言われた」ことなどで「真実と違う報道で人権を侵害された」として4月21日に放送倫理・番組向上機構(BPO)に審理を申し立てている。報告書では「やらせ」を含め、A氏の主張の多くを否定したが、それ以外の「過剰な演出」が多数指摘されている。

  • 「クロ現」問題では15人が処分され、役員4人が報酬の一部自主返納を決めた
    「クロ現」問題では15人が処分され、役員4人が報酬の一部自主返納を決めた
  • 「クロ現」問題では15人が処分され、役員4人が報酬の一部自主返納を決めた

ブローカーと断定するには「裏付け不足」

   問題とされたのは、14年5月14日に放送された「追跡『出家詐欺』~狙われる宗教法人~」。多重債務者がブローカーを通じて出家し、名前を変えることで多重債務者であることを分からないようにして金融機関から不正に融資を受ける手口に迫る内容だ。14年4月に関西ローカルの「かんさい熱視線」で放送された内容をベースにしている。

   報告書によると、「事情通」として記者と付き合いがあるB氏に対して記者が「出家詐欺に詳しい人物はいないか」と相談を持ちかけ、B氏は「自分自身が近く出家の相談に行くつもりだ」としてA氏を紹介した。B氏は多重債務者だ。記者は相談の様子を撮影したいと考え、B氏経由でA氏にも了承を得た。番組ではA氏に「ブローカー」とテロップが入ったが、この点をA氏は「自分はブローカーではなく、記者に演技するように依頼された」と最も問題視している。

   この相談の様子は、19分間にわたって映像素材に残っていた。報告書によると、記者がA氏と会うのは2回目。撮影前に記者、A氏、B氏の3人が合流し、タクシーで撮影現場に向かう途中で30分程度カフェに立ち寄っている。こういったことから、

「以前に一度しか会っていない相手にいきなりブローカーを演じさせるのに、この程度の時間で打ち合わせが済むとは考えられない」
「A氏は、自身のそれまでの知識や体験に基づき、演技の指導などを受けることなく出家詐欺の手口を詳細に語ったと考えるのが妥当である」

と結論づけている。こういったことを根拠に「やらせ」は行われなかったと判断されたが、ブローカーに近い人物や関係者という水準を超えて「実際の『ブローカー』であると断定し放送でコメントするには、それ以上の裏付けがなければならない」と、裏付け取材不足を指摘した。

撮影開始直後に記者が「よろしくお願いします。10分か15分やり取りしてもらって」

   ただ、映像素材の中には別の面で「やらせ」が疑われかねない部分があった。相談場面の撮影が始まると、記者は

「よろしくお願いします。10分か15分やり取りしてもらって」

と話し、相談が終わると

「お金の工面のところのやりとりがもうちょっと補足で聞きたい」

と話しかけていた。報告書では、素材を確認した結果として「記者がやりとりの文言を指定したり、新たな内容を付け加えさせた事実はなかった」と結論付けているが、

「自らに都合のよいシーンに仕立てようとしたのではないかという疑念を持たれかねず不適切だった」

とも指摘している。

   それ以外にも、多数の不適切な点が指摘されている。相談が行われた部屋はB氏の知人が借りており、B氏が鍵を預かっていたが、番組では「活動拠点」だと説明していた。この点は4月9日発表の中間報告でも指摘されており、同日放送の「クロ現」でも陳謝している。

   番組の構成も問題視された。放送された番組は(1)番組側がブローカー(A氏)の存在を突き止めてインタビューする(2)多重債務者(B氏)がブローカーのもとを訪れて相談する(3)相談後にカメラが多重債務者を追いかけて問いただす、とう内容だった。

   記者がB氏に相談を持ちかけたことで今回の取材が始まったという経緯からすると、番組の筋書きは事実と異なる。だが、記者は「ネタ元の話をそのまま見せることに抵抗があった」などとして、上記筋書きに沿った取材メモを作成して取材デスクや制作チームに報告し、納得させていた。

   報告書では、こういった点についても、

「実際の取材過程とは異なる流れを印象づけるものであった」

として、「過剰な演出が行われた」と指摘した。

   記者以外の目によるチェックも働かなかった。撮影現場には記者、A氏、B氏が3人そろって姿を見せている。筋書きどおりならば3人が一緒に登場するのは不自然なはずだが、カメラマンやディレクターは特に記者と2人の関係について確認しなかった。

   これに加えて、上司は取材メモの内容を信用したこともあって、試写で不自然な点に気付くことができなかった。

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