福井県や関西の住民らが関西電力高浜原発3、4号機(同県高浜町)の再稼働差し止めを求めた仮処分申請について、福井地裁(樋口英明裁判長)が再稼働を認めない決定を出したことが波紋を広げている。
主要新聞は朝日新聞、毎日新聞、東京新聞が仮処分決定を評価したのに対して、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞は一斉に批判した。原発の再稼動や原子力規制委員会の新規制基準をめぐる評価が分かれた。原発が立地する自治体の首長からの反響も相次いでいる。
両グループは真っ向から対立
朝日「司法の警告に耳を傾けよ」
毎日「司法が発した重い警告」
東京「国民を守る司法判断だ」
読売「規制基準否定した不合理判断」
日経「福井地裁の高浜原発差し止めは疑問多い」
産経「『負の影響』計り知れない」
仮処分決定から一夜明けた2015年4月15日の朝刊の社説は、見出しを比較するだけでも各社のスタンスが浮き彫りになる。脱原発を説く朝日、毎日、東京に対して、読売、日経、産経は原発事故後も原発を推進する立場で、両グループの主張は真っ向から対立する。
脱原発の論陣を張る朝日は「原発の再稼動を進める政府や電力会社への重い警告と受け止めるべきだ」と主張。「安倍政権は『安全審査に合格した原発については再稼動を判断していく』と繰り返す。そんな言い方ではもう理解は得られない。司法による警告に、政権も耳を傾けるべきだ」とした。
毎日は「原発再稼動の是非は国民生活や経済活動に大きな影響を与える。ゼロリスクを求めて一切の再稼動を認めないことは性急に過ぎるが、いくつもの問題を先送りしたまま、見切り発車で再稼動すべきでないという警鐘は軽くない」と、政府や電力会社に慎重な対応を求めた。
これに対して、読売は「合理性を欠く決定と言わざるを得ない」「福島第1原発の事故後、原発再稼動に関し10件の判決・決定が出たが、差し止めを認めたのは樋口裁判長が担当した2件しかない。偏った判断であり、事実に基づく公正性が欠かせない司法への信頼を損ないかねない」と、痛烈に批判した。
原発が立地する自治体の首長の反応は様々だ。関電高浜原発が立地する福井県の西川一誠知事は「県としてはこれまで通り、安全確保を最優先に慎重に対応していく」とコメントするにとどめた。西川知事はこれまで「現状で原発がゼロでは日本は成り立たない」と述べており、高浜原発3、4号機の再稼働をめぐる県の同意については「政府が夏ごろにエネルギーミックス(電源構成の割合)を示すのと並行して進むだろう」と、容認する姿勢をにじませている。
関電の経営にも影響?
北海道電力泊原発が立地する北海道の高橋はるみ知事は「地裁の一つの判断として重いと考える」と発言し、仮処分決定を尊重する考えを示したが、今回の仮処分決定が泊原発の再稼働に影響するかと問われると、「そこはよくわからない」と明言を避けた。
東京電力柏崎刈羽原発が立地する新潟県の泉田裕彦知事は今回の仮処分決定について「原発の安全確保には福島第1原発事故の検証・総括が不可欠だ。それがなければ、同じことを繰り返す恐れもあり、原発の安全が確保できないと考えている」とコメント。「事故の検証・総括がないまま策定された規制基準では安全確保はできない。原子力規制委員会には、新規制基準には問題があるとの指摘を踏まえ、地域の安全をいかに確保するかという組織の本来の目的を果たして、実効性のある対策をすみやかに構築していただきたい」と、政府とりわけ原子力規制委に苦言を呈した。
一方、原子力規制委員会の田中俊一委員長は今回の仮処分決定について「事実誤認がある。新規制基準は世界で最も厳しいレベルだと理解されなかったのは残念だ」と述べるなど、議論は平行線のままだ。
関西電力は仮処分決定の取り消しを求める保全異議を福井地裁に申し立て、再稼働禁止の執行停止も求めた。関電の八木誠社長は「(決定は)遺憾で承服できない。経営への影響が出ないように、安全性の立証に全力を尽くしたい」と発言。福井地裁が異議を認めない場合、関電は高裁に抗告する見通しだが、今後の司法手続きで決定が覆らない限り、高浜原発は再稼動できない。いずれにせよ、関電が見込んでいた今年11月の再稼働は極めて難しくなったとの見方が一般的で、経営への影響は避けられそうもない。