自民党は2015年3月3日、郵政事業に関する特命委員会(委員長、細田博之幹事長代行)の初会合を開き、日本郵政グループのゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の限度額引き上げに向けた議論を始めた。
14年末の衆院選時の公約に基づくもので、今国会中に結論を出すという。統一地方選をにらんで「郵政票」を取り込む狙いも透けて見える。これまでに何度も浮かんでは消えた話だが、日本郵政グループの政治との縁深さを改めて示している。
預け入れ限度額引き上げが全特の長年の悲願
「郵政票は衆院小選挙区ベースで1000票程度、多くて2000票ほどだが、これがあるとないとではだいぶ違う」。ある自民党古参幹部はそうつぶやく。永田町では「全国30万票」(別の与党幹部)との見方もあるが、衆院小選挙区が295であることを考えれば辻褄は合う。2013年の参院選比例選出に自民党公認で出た全国郵便局長会(全特)出身の柘植芳文氏が43万票近く得て党内トップ当選した実績もある。全特は小泉純一郎元首相による郵政改革で一時、自民党と疎遠になったが、今や最大の集票マシーンとして復帰しているわけだ。
ただ、日本郵政グループの業容は、特に郵便事業が芳しくない。稼ぎ頭のゆうちょ銀行に事業拡大してもらいたい、とりわけ預け入れ限度額を上げてほしい、というのが全特の長年の悲願。14年秋に上場も控えており、これに自民党が応えようという分かりやすい構図だ。
利益の9割近くを金融2社が稼ぎ出している
ただ、郵政事業の話はそう単純に割り切れない複雑な面もある。ここで経営の最新動向を確認しておこう。
日本郵政グループが2月10日に発表した2014年4~12月期連結決算によると、純利益は前年同期比2.6%増の4046億円。同じ期間の日本企業と比べると、円安で絶好調のトヨタ自動車の1兆7268億円には遠く及ばないものの、日立製作所の1749億円は大きく上回る。堂々たる優良企業と言っておかしくない。
とはいえ、金融2社、すなわち、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の稼ぎに頼っているのが相も変わらぬ実態だ。2014年4~12月期のゆうちょ銀行の純利益は2800億円、かんぽ生命は737億円。単純計算で9割近くを金融2社が稼ぎ出していることになる。何しろ、郵便事業などを担う日本郵便の2015年3月期は純損益が260億円の赤字見通しだ。
金融2社のうちでも、ゆうちょ銀行の存在感は大きい。日本郵政グループの2015年3月期の連結純利益見通しは14年5月時点より900億円上積みした3500億円だが、この「900億円上積み」はこの間のゆうちょ銀行の上方修正額と同じだ。
この、頼みの金融2社の手足は縛られた状態でもある。ゆうちょ銀行に預けられる金額は1人1000万円までで、これを超えてはならない。超えた場合は本人に連絡が来てお金を移すよう指示され、放っておけば「国債を買わされる」など、強制的に限度額が守られる。一方のかんぽ生命も保険加入限度額は1300万円だ。
ゆうちょ銀行による住宅ローンなどは凍結のまま
集めた資金を運用する面でも、以前から日本郵政グループが求めているゆうちょ銀行による住宅ローンなどの新規事業は凍結されたままだ。
15年秋の上場を控え、こうした縛りを解いてほしいのが日本郵政グループの要求だ。そもそも、持ち株会社日本郵政の西室泰三社長は以前、新規業務拡大を審査する郵政民営化委員会の委員長として住宅ローン進出などを容認していた「拡大派」。社長就任後も限度額については引き上げどころか「撤廃」を主張している。
ただし、民間金融界、特に人口減などで先細り必至の地銀各行にとって、ゆうちょ銀行の業容拡大は簡単には見過ごせない。地銀に郵政ほどの集票力も政治力もないが、いつものように米国が「政府の持ち株比率が高いうちは事業拡大ノー」と横やりを入れる可能性もある。郵貯拡大の話は米国の動向にも常に注目する必要がある。