日銀が初めて実施した「債券市場サーベイ」という調査が波紋を広げている。銀行や証券会社などの債券市場参加者に対し、国債の取引が円滑に行われているかどうかを聞く調査だが、2015年3月9日に公表された初調査の結果は、市場機能が3カ月前より低下したとの回答が75%に達するなど、日銀にとって散々な内容だったためだ。
日銀は表向き「問題は起きていない」と強気の姿勢を貫くが、異次元緩和の「副作用」が数字として示されたことは、今後の金融政策運営にも微妙な影を落としそうだ。
市場参加者の注文量が「減少した」との回答も77.5%
この調査は、日銀が昨年10月末に電撃的な追加緩和を決めた後、市場との対話を強化する狙いで導入された。日銀は2%の物価上昇率目標の達成に向け、債券市場で大量の国債を買い入れている。追加緩和は事実上、政府の新規発行額にほぼ匹敵する量を市場から吸い上げる異例の政策に踏み切っており、市場参加者への影響をより丁寧に見るため、四半期に一度、聞き取り調査を行うことにした。
初の調査では40社が回答したが、債券市場の取引状況を総合的に評価する「市場機能度」について、26社(65%)が「さほど高くない」、12社(30%)が「低い」と答え、「高い」と回答したのは2社(5%)だけだった。市場参加者の注文量が3カ月前から「減少した」との回答も77.5%に達し、日銀が大量に国債を買い入れている結果、市場に流通する国債が減り、取引も細っている現状が浮き彫りになった。日銀は新たな調査導入で市場参加者への配慮を見せたつもりだったのだろうが、調査結果はかえって異次元緩和の「副作用」を見せつけた形だ。
「将来非常に大きな問題が表面化する可能性がある」
多くの投資家による活発な取引が行われなくなった結果、債券市場では適正な価格(金利)が形成されにくくなっており、1月から2月にかけて、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは0.1%台から0.4%台まで乱高下した。こうした状況に対し、金融政策を決める日銀の政策委員からも、何らかの出来事をきっかけに金利が急上昇し、住宅ローン金利に波及するなど「将来非常に大きな問題が表面化する可能性がある」(木内登英審議委員)と、強い懸念の声が上がり始めている。
これに対して日銀執行部は「現時点では国債の大量買い入れの効果が副作用を上回っている」(幹部)として、強気の姿勢を崩していない。黒田東彦総裁は3月17日の記者会見で、意図した価格で取引できていないとの回答が少なかったことに触れ、「債券市場の流動性に現時点で大きな問題は生じていない」と胸を張った。ただ、黒田総裁の評価は都合の悪い数字に目をつぶり、都合の良い数字だけを拾ったに過ぎないともいえる。市場の声を真正面から受け止めない聞き取り調査では、単なる対話のアリバイ作りとみなされ、市場からの批判が高まる可能性がある。
原油価格の下落で物価上昇率がゼロに近づき、日銀が目指す2%から遠ざかるにつれ、市場では年内の追加緩和観測が高まっている。だが、一段と緩和を拡大すれば市場機能はさらに低下し、最後は壊れてしまいかねず、日銀の政策運営は難しさを増している。