過激派組織「イスラム国」から逃げてきたという男が、イギリスのテレビ局の取材に、ジャーナリストの後藤健二さんが殺されるのを見たと証言した。信ぴょう性ははっきりしないが、その生々しい告白内容が話題になっている。
人質を処刑しているのは、クウェート生まれでロンドンの大学を出たジハーディ・ジョンことムハンマド・エムワジ容疑者(26)だとされている。
ニセのリハーサルを繰り返し、人質を油断させていた
イスラム国で人質の通訳をしていたという覆面姿の男は、英衛星テレビ「スカイニュース」のインタビューにたどたどしい英語で答えていたが、後藤さんを殺したのもエムワジ容疑者かと聞かれると、「そうです」とはっきり答えた。
男は現在、トルコに逃れてきているといい、インタビューも、コーランが響き渡る街中の建物内で行われた。スカイニュースは、その模様を10分余にわたって2015年3月10日の放送で伝えた。
それによると、殺される動画を撮られるときに、人質が落ち着いた様子で取り乱すこともなかったのには、理由があった。
男は、人質の管理も担当しており、彼らには、こう声をかけていたという。
「何も問題はないよ。ビデオを撮るだけだよ。殺しはしないから」
「あなたたちの政府がシリアに攻撃するのを止めさせたいだけだから。あなたには、問題はないんだ。単なるお客さまに過ぎないんだよ」
こう言ってニセのリハーサルを繰り返し何度も行い、人質を油断させていた。そして、本当に殺すときは、気づかれないようにしたというのだ。
後藤さんに対しては、仲間だと思わせるように、アラブ名で「アブ・サード」と呼んでいたという。「イスラム教徒になって、われわれと一緒に来いよ」。人質にはこう語りかけ、アラブ名で呼ばれるときの後藤さんはリラックスして見えたとした。
しかし、男はこうも明かした。「最後には、彼らが死ぬであろうことは、私にははっきり分かっていました」。
すべて大ボス「ジハーディ・ジョン」の指示だった
リハーサルなどの指示を男らにしていたのが、ムハンマド・エムワジ容疑者だったという。
エムワジ容疑者は、イスラム国のメディア部門で人質を処刑する責任者をしており、組織内では恐れられ、尊敬されていたという。インタビューに応じた男も、「大ボス」とエムワジ容疑者を呼んでいた。エムワジ容疑者だけが、人質を殺すことができたともした。なぜエムワジ容疑者がそんなに強い力を持つのかについては、よく分からないとしながらも、「ナイフを使えるからではないか」と述べた。
男が人質の処刑を見たのは後藤健二さんだけだったといい、エムワジ容疑者に殺されるときは、少し離れた場所から見ていたと明かした。トルコ人がカメラの配置などを指示しており、エムワジ容疑者は、「早く」と何度も急がせていたとした。殺害後は、ほかに3、4人が来て、遺体を車に載せ、エムワジ容疑者は、別の方向へ去っていったという。
男は、イスラム国から逃げた理由について、人質に友人だとだますのが嫌になり、処刑を見たことで怖くなったからだと説明した。ただ、スカイニュースでは、男は、人質と同じようにイスラム国から命を狙われていると伝えていた。
インタビュー内容は日本でも報じられ、ネット上では、男がインタビューに応じた意図を勘ぐる向きもある一方、「卑怯の極地だな」「やり切れない」といった声も上がっている。