訪日中国人の数は、春節などをきっかけに急増している。観光や買い物、彼らの目的はさまざまだ。
中国人はいったい日本のどんな情報を求めているのか。「環球時報」のウェブ版「環球網」の編集長を務める朱研さんに聞いた。
「爆買い」は米国やヨーロッパでも起きている
―― 訪日する中国人が急増しています。どういう背景がありますか。
朱:爆発的に増えている理由は3つ考えられます。まず、今年(2015年)は海外に旅行する人が国内よりも初めて多くなりました。そうした流れに乗って、日本へ訪れる人が増えた、ということです。
2つ目は人民元と日本円との関係です。2年前私が訪日した時は1元=12円でしたが、今は約20円。元の価値が上がり、観光しやすく、買い物もしやすくなった。今後もっと人民元が高くなることが予想され、条件は改善する傾向です。
3点目はもともと景色の素晴らしさなど、観光地として日本の知名度は高いこと。中国から距離が近くて、日本風の「おもてなし」も人気です。中国人の関心が高い観光都市ランキングで、東京は7位だったという調査もあります。この数年でさらに高くなっていると思います。
―― 「爆買い」も日本で話題になっています。買い物も訪日の目玉になっているのでしょうか。
朱:海外に出かけた中国人観光客は1人あたり1万元使うというデータがあります。ほかの国よりもずっと多い額です。「爆買い」は日本に限らず各国で起きていて、アメリカやヨーロッパ各国でも現地の人たちを驚かせています。 背景には、中国人の文化的な要因があるかもしれませんね。友人や家族に海外旅行の話をする時は、まずお土産を渡すというマナーがあります。なので、どうしても大量買いになりがちです。
また、中国人の消費活動の変化も見逃せません。国内より、海外に出かけて買い物をするという傾向が出ています。
中国ではぜいたく品の税金が高い
―― かつては日本人も世界中でたくさんの買い物、特にブランド品を買い占めていたことを思い出します。
朱:海外メディアが、今の中国を80年代の日本と比較する記事を書いていました。似た点があるのかもしれません。
―― 最近は日本製の便座が評判だそうですね。ほかにはどんなものが人気ですか。
朱:今も日本の家電は人気で、電子レンジや炊飯器、ドライヤーなどがたくさん買われています。多くの中国人が日本の家電は優れていると考えているからです。
中国ではぜいたく品の税金が高い。そのため海外に出た時は「ブランド品を買わないといけない」という気分が強まり、ジュエリーや宝飾品、化粧品、アパレル関連...、大量に買います。ほかにも、さまざまなものに興味を持っています。
―― 日本の家電はどこに魅力を感じているのでしょうか。
朱:実は中国の家電メーカーも悩んでいるのです。そもそも電圧の違いがあり、中国製品も質は悪くない。わざわざ日本で買う必要はないのです。にもかかわらずといった不満でしょう。
しかし、日本製品の質の高さや信頼性、サービスのよさなどは依然評価されている。中国メーカーもさらによい商品を作ろうと考えていますよ。
コストや値段よりも本当に一番いいものを選ぶ
―― 買い物や観光をする上で、中国の消費者はどんな情報を知りたいのでしょうか。
朱:中国の消費者はもっと多くの情報を集めようとしています。しかし、まだまだアクセスできる日本製品の情報は少なく、チャンネルは少な過ぎる。
中国人が求めている情報は、自国言語で読める、信頼できる、スマートで分かりやすいもの。
そういうチャンネルを求めるニーズが高まり、環球網も商品紹介などに力を入れています。
―― 日本製品を上手にPRするにはどういう方法がありますか。
朱:中国市場は大きく変化し、日本メーカーの担当者も苦労しながら色んな情報を出している。それでも足りない、と私個人も感じています。
私が子どものころは物が少なかった。でも今は、「何もなかった」から「何でもある」に変化している。かつては国内メーカーが提供していたが、今は世界中から中国に物が集まってくる。中国人自体が海外に出かけるようになり、全世界からいいものを選ぶようになった。昔と比べると大きな変化です。
また、コストや値段よりも本当に一番いいもの、先進的なものなのか、そういうニーズが高くなっています。改革開放を経験した世代は節約という考え方がありましたが、今の子どもは裕福だし、一人っ子。親は「まず、いいものを与える」となった。各国の18~19歳を対象にしたあるアンケートでも、買い物で値段を度外視しているのは中国人だけということが分かりました。
どういう情報なら消費者に届くのか考える必要がある
朱:さらにわれわれメディア人は大きな変化に直面しています。これまではどういうものがあるのか、どういう特長があるのかを伝えてきました。今はそれ以上の情報が求められています。例えば、なぜこの時にこの場所で買う必要があるのか。そう訴えなければ消費者は動きません。情報が伝わった瞬間に買わないと、もうチャンスがない、という説明が必要になっています。インターネットの時代では選択や比較は全世界の中で行われています。お店で買わなくても家に帰って買うことができるのです。
そのあたりを強く意識できるかどうか。メーカーもメディアも完全には理解しきれていない。
―― 安ければいい、ではない。高い商品のどこに価値があるのか、その人個人にふさわしいものなのか、そういう情報が大切になってくるということですか。
朱:その通りです。強調したいのは、メーカーやメディアはどういう情報なら消費者に届くのか考える必要があるということです。 中国人は1つの商品を買って気に入ると、周りに教えてあげる。それが広がって、ヒットにつながっていく。たとえばこんな例がありました。香港で化粧品を買う人が相次ぐと、香港ではブランドや価格にこだわらず化粧品ばかりを買います。そのせいで、現地で品不足が起きました。
ほかにはアメリカではコーチ、パリならルイ・ヴィトンというように「定番」があり、同じものばかりを買う。残念ながら「日本なら絶対これ」というブランドやモノは、まだない。日本のメーカーやメディアは中国人消費者の特長をよく理解していないのです。
スマホは人間でいえば臓器、体の一部になっている
―― 中国のネット人口も大幅に増加していますね。最新のデータを教えてください。
朱:2014年12月のデータではネット人口は6億4900万人。1年間で3117万人が増えています。総人口に占める割合も40%から50%に増加した。もはやネットの世論は無視できません。
また、14年はネットのアクセス数でスマホがパソコンを追い抜きました。多くの人はスマホを2台持っていて、1日に約150回触るというデータがあります。1日中触って情報収集、連絡を取る。もはやスマホはただの通信機器ではなく、人間でいえば臓器、体の一部になっていると言えます。
―― 環球網自体もPV、UU数が増えている。今後、どういうところに注力する戦略を立てていますか。
朱:今後、さらに発展していく中で不足していることがあります。これまで環球網は国際ニュースを中心に配信してきましたが、これらは読者の生活に密着した情報ではない。この点を考えると、これまでのビジネスモデルが継続できるのか、疑問を感じる部分があります。国際ニュースが、読者の生活と、具体的にどういう関連があるのかを伝えていきたいと考えています。
Eコマース分野での協力は有望
朱:今回の訪日では色々考えることができました。日本との協力はもっと具体的にできると思います。たとえば日本に来て驚いたのは、多くのメディア、観光会社が中国語のコンテンツを持っているということです。環球網も観光情報のチャンネルはあるが、毎日新しい情報を更新している訳ではありません。われわれが持っていない、細かい情報は掲載していきたい。
Eコマース分野では特に協力を進めていけます。日本には優れた商品、サービスは多く、買い物情報に興味を持つ中国人は多い。それに応えることができれば、日中で巨大な市場を作っていけるでしょう。
ほかには健康や介護、留学といった分野も有力です。おそらく協力を進められる可能性は高い。環球網はこうした情報を通じて、中国の読者が日本のことを理解するチャンネルになりたいと考えています。
朱研(ZHU Yan)さんプロフィール
環球ネット編集長。1999年北京大学卒。2005年清華大学EMBA卒。大学卒業後、環球時報社に入社。経済文化デスク、論説デスクを経て、2006年から常務副編集長。2010年から環球ネット編集長。2015年に常務副社長兼編集長。