「コレステロールの高い食事は体に悪い」。こんなイメージを持っている人は少なくないだろう。食品によっては血中コレステロールの量を増やし、深刻な病気につながると考えられてきたからだ。
ところが米国で、コレステロール摂取量と血中コレステロールの関係性はないとの報告書が出された。国内でも厚生労働省が近年になって、コレステロール摂取量の目安となる値を示すうえで「科学的根拠が得られない」としている。
卵の摂取量と冠動脈疾患や脳卒中罹患との関連性「認められず」
コレステロール摂取に関する見方を変えた、米国の食生活の指針に関する報告書がある。米保健福祉省と農務省に対して、食生活指針諮問委員会が2015年1月28日付で提出したものだ。PDFファイルで571ページに及ぶ報告書の中で、興味深い記述がある。
過去に発行された報告書では、コレステロールの摂取量は1日当たり300ミリグラム以下が望ましいとされてきた。ところが今回はこの数値を撤回。その理由について、入手可能な科学的証拠(エビデンス)からは、コレステロールの摂取と血中コレステロールについての関係性が示されなかったからとした。そのうえで「コレステロールは、過剰摂取が心配される栄養素ではない」と書かれている。米政府がこの内容を採用すれば、摂取量の目安となる数値が撤廃される可能性が出てきた。
日本でも、コレステロールの摂取量に関して以前と考え方が変わった。厚生労働省は2014年3月、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」をまとめた。ここでは、「生活習慣病の一次予防を専ら目的として食事摂取基準を設定する必要のある栄養素」には「目標量」を設定している。前回の5年前の基準では、コレステロール摂取量の目標量として30歳以上の男性は1日750ミリグラム、女性は同600ミリグラムを上限と定めていた。だが今回は、「目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定は控えた」とある。
「基準」によると、例えば動脈硬化関連疾患について、コレステロール含有率が高い鶏卵の摂取量との関連を調べた研究では、「卵の摂取量と冠動脈疾患及び脳卒中罹患との関連性は認められていない」。日本人を対象にした研究でも、1日に卵を2個以上摂取したグループとほとんど摂取しないグループの死亡率を比べても有意な差は認められなかった。糖尿病患者においても同様の結果だったという。生活習慣病と位置付けられるこれらの病気と、コレステロール摂取量との関連性を示す明確な証拠は出てこなかったようだ。
「血中コレステロールを上げる食品」には要注意
実はコレステロールは体内で合成できる。先述の「基準」によると、食事性のコレステロールは、体内で作られるものの3分の1から7分の1を占めるに過ぎない。さらに、「コレステロールを多く摂取すると肝臓でのコレステロール合成は減少し、逆に少なく摂取するとコレステロール合成は増加し、末梢への補給が一定に保たれるようにフィードバック機構が働く」というのだ。そのうえで、
「このため、コレステロール摂取量が直接血中総コレステロール値に反映されるわけではない」
と結論づけられている。
ただし、コレステロールを「多く含む」食品ではなく、「血中コレステロールを上げる」もの、具体的には飽和脂肪酸には注意が必要だ。2015年2月20日付のAFP通信の記事によると、米国の2010年版食生活の指針では、飽和脂肪からのカロリー摂取制限量は1日当たりの全カロリー摂取量の10%と示されていたが、今回の報告書では8%に下げられていたという。
厚労省もウェブサイトで、脂身の多い肉や即席めん、ポテトチップスなどを「血中コレステロールを上げる食品」として、注意を促している。ポテトチップスは「食品としては全くコレステロールを含んでいない」そうだ。