長期金利が急上昇した。2015年2月3日の国債市場で、長期金利の指標である新発10年物国債(337回債、表面利率0.3%)の利回りが一時0.365%となった。
10年物国債の利回りは1月20日に0.195%と過去最低を記録したばかり。2月3日の終値は前日比0.070%高い0.355%と約1年8か月ぶりの上昇幅となり、不安定さが増している。
国債市場に激震、投げ売りも
0.365%の利回りは、2014年12月半ば以来、約1か月半ぶりの高水準。急上昇のきっかけとなったのは新発10年物国債の入札だ。その入札で落札価格が市場予想を大きく下回り、「不調」と受けとめられた。
入札が不調だったのは、国債を高値(低い金利)で買おうという金融機関の参加が少なかったためで、応札額の5兆8000億円は1年半ぶりの少なさだった。それにより、すでに市場に流通している国債にも売り注文が膨み、「投げ売りもあった」との情報もある。
長期金利はわずか2週間前の2015年1月20日に過去最低の0.1%台まで低下。極端な低金利で、機関投資家が国債を買い控えたとみられ、入札では証券会社などの応札が十分に集まらなかった。長期金利の急上昇で、市場は警戒感を強めている。
長期金利の動きが不安定になっている背景には、日本銀行による追加緩和の観測がやや後退したことがある。日銀は1月21日の金融政策決定会合で、2015年度の物価見通しを大幅に引き下げたが、原油安が原因のため「追加的な(金融緩和)措置はいらない」(黒田東彦総裁)とコメントした。
一方で市場の波乱要因だった原油安もだいぶ落ち着いてきており、「金利低下が続く」との市場の見方は反転しつつある。
日銀は2013年4月に打ち出した「量的・質的金融緩和」で大量の国債を購入している。証券会社などは財務省の入札に積極的に応じて国債を購入し、その直後に日銀に売却して利益を得てきたが、日銀の追加の金融緩和が遠のけば、金融機関は大量に国債を買い入れにくくなる。
そのため、2月3日の入札は不調になり、市場の国債売りを誘ったというわけだ。
国際金融アナリストの小田切尚登氏は、「すでに金利がどうこういう水準ではないくらいの低金利ですから、外資を含め、機関投資家にとっては『(国債を)買っても仕方のない状況』になりつつあります」と説明。買い手が日銀だけでは、「今後は入札の不調が、かなり起ってくると思いますよ」とみている。
あの経済小説のような展開に?
債券ディーラーの経験がある作家の幸田真音さんの著書『日本国債』(講談社)には、国債市場が暴落(金利は急騰)するシーンがある。そこでは国債による「借金漬け」に強い懸念を抱く、金融機関で国債を売買するトレーダーらが入札をボイコットすることがきっかけになっている。
まさかボイコットはないだろうが、2015年2月3日には現実に、国債の入札で応札が集まらないという事態に陥った。前出の国際金融アナリストの小田切氏は、そういった事態は今後増えてくるという。
国債市場での「入札ショック」は、株式市場にも「飛び火」した。東京株式市場の2015年2月3日の日経平均株価は、終値で前日比222円19銭安の1万7335円85銭と、約1週間ぶりに1万7500円を割り込んだ。
一般に、債券相場が下落すると株式相場は上がる傾向にある。債券を売って、株式を購入しようとする動きが活発化するからだが、それが崩れた。
小田切氏は、「もう教科書どおりにはいかなくなってきています。国への投資(国債)もダメ、日本企業への投資(株式)もダメという、『日本売り』のようなもの」と指摘する。
海外も含め、預金やコモディティなど、投資先はいくらでもある。そう遠くない日に、外国人投資家らの「日本売り」が起こるかもしれないというのだ。
安倍政権が推し進める経済政策「アベノミクス」の効果も、なんだか怪しくなってきたようだ。