日本人2人がイスラム国に拘束されている問題で、イスラム国幹部と交流があるイスラム学者の中田考・同志社大学客員教授が2015年1月22日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見し、イスラム国に向けて「もう少し待ってほしい」などと訴えた。
身代金の支払いには否定的だが、赤新月社(赤十字社のイスラム圏での呼称)を通じてイスラム国支配地域での人道支援活動に身代金と同額を拠出することを提言。「これが一番合理的で、どちらの側にも受け入れられる、ギリギリの選択」だとした。
私戦予備・陰謀の容疑で家宅捜索され、イスラム国との連絡控える
中田氏が面識があるのは、イスラム国司令官のウマル・グラバー氏。中田氏によると、イスラム国が成立する前の2013年に知り合い、交流があったと説明している。
湯川遥菜氏の拘束が明らかになった後の14年8月26日、ウマル氏から
「人質になっている湯川氏の裁判をしたいので、イスラム法がわかり、日本語、アラビア語が出来る人をお願いしたい。裁判の様子を取材する為にジャーナリストも連れてきてほしい」
などと中田氏に連絡があった。この時点では、身代金の要求はなかったという。中田氏はトルコ経由でシリア入りしてウマル氏に会ったが、空爆が始まり、人質を預かっている責任者と連絡が取れなくなり、トルコに引き返したという経緯がある。
その後、北海道大学の学生のイスラム国行きを支援したとして、警視庁公安部は14年9月と10月に中田氏の自宅を私戦予備・陰謀の容疑で捜索。この影響で、中田氏はイスラム国関係者との連絡を控えてきた。
中田氏は会見の中で、安倍晋三首相の中東歴訪を「偏った外交」だと批判した。
「安倍総理自身は中東に行ったことが地域の安定につながると信じていたが、残念ながら、非常にバランスが悪いと思う。イスラエルに対して入植地への反対を直言するなど、バランスの取れた外交を行っていると信じていると思うが、中東において、イスラエルとそもそも国交を持っている国がほとんどない、という事態を正確に実感していないのでは。中東、アラブ、イスラム世界では非常に偏った外交だとみられる」
「テロリストの要求のまないことと、交渉のパイプを持たないことは全く別」
日本政府が総額2億ドルの支援を人道目的だと説明していることについても、シリアからの難民の半数以上がトルコにいることを挙げながら、
「トルコを最優先にすべきであって、(支援対象から)トルコが外れているところで『難民支援、人道支援』と言っても通用しないと思われる」
と指摘した。
その上で、
「テロリストの要求をのむ必要はもちろんないが、そのことと交渉のパイプを持たないことは全く別のことだと思う」
とも主張。赤新月社がイスラム国の支援地域でも人道支援活動を行っていることから、イスラム国が要求している金額を、トルコに仲介役にしながら赤新月社に難民支援、人道支援目的に限定して拠出することを提案し、
「これが一番合理的で、どちらの側にも受け入れられる、ギリギリの選択ではないかと考えている」
だとした。
カメラを前に、イスラム国への呼びかけも行った。日本語とアラビア語で(1)日本の政府に対してイスラム国が考えていることを説明し、こちらから新たな提案を行いたいと思う。しかし、72時間はそれをするには短すぎる。もう少し待ってほしい(2)もし交渉ができるのであれば、私自身、イスラム国に行く用意がある、などと説明。1月17日にイスラム国が350人のヤズィーディー派の人質を人道目的で解放したことに触れながら、
「そのことは高く評価できる。印象も良くなっている。日本人を釈放することがイスラムおよびイスラム国のイメージをよくするし、私もそれを望んでいる。日本にいるすべてのムスリム(イスラム教徒)も、それを望んでいるはず」
と訴えた。
菅義偉官房長官は1月22日の会見で、中田氏らが問題解決に向けた支援を申し出ていることについて、
「日本としては人命救助のために、ありとあらゆる可能性をさぐっているところ」
と話した。