理化学研究所が2014年12月19日に開いたSTAP細胞の検証実験に関する会見で、報道陣に最も驚きが広がったのが、小保方晴子氏の退職が発表された瞬間だ。会見中盤になって2枚の発表資料が追加で配られ、1枚には小保方氏、もう1枚には野依良治理事長のコメントがそれぞれ印刷されていた。
その中で、小保方氏は退職届を提出したこと、野依理事長は「本人の意志を尊重することとしました」と退職届を受理したことを明らかにした。
だが、小保方氏はSTAP細胞論文=14年7月に撤回=の画像の切り貼りが「捏造」「改ざん」といった「研究不正」だと認定され、懲戒処分の決定を待つ身だ。処分が決まらないまま退職を認めたことに疑問も出ている。
退職後も「どういう処分『相当』であるかどうか」を検討
小保方氏のコメントには、
「私の未熟さゆえに論文発表・撤回に際し、理化学研究所を始め多くの皆様にご迷惑をおかけしてしまったことの責任を痛感しておりお詫びの言葉もありません。検証終了を以て退職届を提出させていただきました」
とあり、検証実験でSTAP細胞を作製できなかったことの責任を取る形で退職を選んだことが分かる。野依理事長のコメントでは、退職届を受理することが明らかにされている。
「これ以上心の負担が増すことを懸念し、本人の意志を尊重することとしました。前途ある若者なので、前向きに新しい人生を歩まれることを期待しています」
STAP論文の画像の切り貼りをめぐっては、5月に理研による「研究不正」の認定が確定し、懲戒委員会が発足。だが、論文に対する新たな問題が持ち上がり、それを調べるための調査委員会が6月に立ち上がったため、懲戒委員会の動きはストップしていた。
坪井裕理事によると、退職後も懲戒処分の検討は進むという。
「今回退職を認めて理研職員でなくなるとしても、懲戒委員会の手続きは、今度の調査委員会の結果が出た後に再開する予定。基本的には、どういう処分『相当』であるかどうかという検討を、再開した懲戒委員会ですることになると想定している」
朝日記者「退職した方を処分できないじゃないですか!」
仮に処分が決まったとしても、すでに退職した職員に対しては実効性を全く持たない。当然、この点は会見でも問題視された。
朝日新聞の記者は、
「そういう(懲戒処分が確実な)場合、企業とか大学では、退職願は受理しないというのが常識。なんでそれを受理するという非常識なことをやったのか」
と理研の対応を非難。坪井氏は理事長コメントの内容を繰り返しながら、
「これで退職届を受理しない、受け取らない、とした場合の負担はやはり考慮すべき」
と説明し、懲戒委員会が再始動することにも改めて言及したが、記者は、
「退職した方を処分できないじゃないですか!」
といい、全く納得できない様子だ。
理研理事「ここは本当、色んなご意見があろうかと思いますが...」
坪井氏は、
「『相当』であることについて発表するだけにはなるが、ただ、そこは繰り返しになるが、これ以上の負担で本人への負担を...」
と説明を繰り返した。記者はさらに、
「そういうことが、理研という組織が普通の一般社会の企業とか大学の常識とかけ離れていると世間から思われている。それに対してどう思うのか」
とヒートアップ。坪井氏は、
「研究不正、例えば大学の中でも、調査結果が出る前、処分が出る前に退職される事例は理研だけの問題ではないとは思っているが、ここは本当、色んなご意見があろうかと思いますが...」
と応じ、やりとりはすれ違ったままだった。
STAP細胞をめぐる問題では、問題発覚後の14年3月に発生・再生科学総合研究センター(CDB、当時)の笹井芳樹副センター長(当時)が副センター長の辞任を申し出たが、竹市雅俊センター長(同)は辞任を認めなかった。笹井氏は8月5日に自殺したが、副センター長を務め続けることが心理的負担になり、ストレスで体調を悪化させたことが自殺の引き金になったという批判も出ていた。今回の理研の判断には、当時のこういった事情を念頭に置いている可能性もある。