理化学研究所は2014年12月19日に、理研と小保方晴子研究員が別々に行っていたSTAP細胞の検証実験で細胞を作製できず、15年3月まで予定されていた実験を前倒して打ち切ると発表した。STAP細胞が存在する可能性は限りなく低くなり、小保方氏は退職届を提出して受理された。
小保方氏が発表したコメントでは「大変困惑しております」と、結果に納得していない様子だが、理研は小保方氏を会見に出席させていない。小保方氏が詳細な反論をすることなく、「夢の細胞」と言われたSTAP細胞は「夢」として幕引きされることになった。
脾臓以外に肝臓や心臓でも試したが再現できず
STAP細胞をめぐっては、1月30日に小保方氏が筆頭著者の論文が英科学誌「ネイチャー」に掲載されたが、直後から疑問の声が噴出。4月には小保方氏が会見を開き、STAP細胞を「200回以上作製に成功した」などと反論した。会見での「STAP細胞はありまーす!」という言葉は14年の流行語大賞の候補にもノミネートされた。だが、論文は7月に撤回され、この時点でSTAP細胞の科学的意義は失われていた。
理研は丹羽仁史・副チームリーダーらが4月に検証実験を開始。8月の中間報告では、論文に記載された方法ではSTAP細胞が作製できなかったことが明らかにされた。これとは別に小保方氏は7月から検証実験を行い、11月末に実験の期限を迎えていた。
丹羽氏のチームでは、中間発表までに実験した脾臓(ひぞう)に加えて、肝臓や心臓も使い、これまでと違った方法でも酸処理を試みた。違った遺伝背景を持ったマウスも使ったが、STAP現象は再現できなかった。
小保方氏は少なくとも45回にわたって検証実験を行った。万能性の兆候を示すとされる、遺伝子が緑色に光る現象は確認されたが、細胞が死ぬ時にみられる「自家蛍光」と区別することができなかった。
「いちメンバーがどうだった、と発表する場ではない」と小保方氏出席させず
小保方氏は、実験データのとりまとめ終了後の12月15日に退職届を提出し、理研は受理した。会見には小保方氏は出席しなかったが、12月19日付けの小保方氏のコメントが配布された。コメントからは実験結果に納得していない様子が読み取れる。
「どのような状況下であっても必ず十分な結果をと思い必死に過ごした3か月でした。予想をはるかに超えた制約の中での作業となり、細かな条件を検討できなかった事などが悔やまれますが、与えられた環境の中では魂の限界まで取り組み、今はただ疲れ切り、このような結果に留まってしまったことに大変困惑しております」
再現実験の責任者、相澤慎一チームリーダーも、小保方氏について「彼女自身はこの結果に、困惑しているというのが現状」で「そのことを受け止められる状態になっていないと推察している」と説明した。
だが、現時点では小保方氏からこれ以上の説明が得られる可能性は低そうだ。相澤氏によると、
「(記者会見は)検証実験の結果を実験責任者から発表する場。その中のいちメンバーがどうだった、と発表する場ではない」
として、理研の判断で小保方氏を出席させなかった。小保方氏が会見に出席して説明を望んでいた可能性については、相澤氏は、
「本人はそう申されるかもしれないが、本人から、直接『会見に出席させて欲しい』という申し出はなかった」
と否定も肯定もしなかった。
退職認めて処分できないのに懲戒処分の検討は続く
小保方氏をめぐっては、ネイチャー掲載の論文の画像に「改ざん」「捏造」といった研究不正行為が認定され、懲戒処分の対象になっている。論文に新たな疑義が生じたことで、処分の検討は進んでいなかったが、調査が進み次第懲戒委員会を再開する考え。「●●処分相当」という形で結論を出す予定だが、退職した職員を処分することはできないため、実効性はない。
そのため、会見では、懲戒処分が検討されている職員の退職届を受理することは「非常識」だという批判も出た。この点については、野依良治理事長のコメントで、
「このたび退職願が提出されましたが、これ以上の心の負担が増すことを懸念し、本人の意志を尊重することとしました」
などと説明されている。坪井裕理事も、「受理しないことの負担を考慮した」と話した。このような理由で退職届を受理している以上、一部で指摘されている詐欺罪での刑事告訴や、民事での損害賠償請求が行われる可能性はきわめて低いとみられる。小保方氏は任期制の職員で、退職金は出ない。