新聞各紙の情勢調査で与党の優勢が明らかになるなか、焦点になりそうなのが野党「大物議員」の当落だ。選挙区別の情勢調査の結果では民主党の海江田万里代表を筆頭に「激しく競り合っている」などと書かれ、きわどい状況の幹部が続出している。調査結果が出てからも与党は「大物」を続々と民主党の幹部が立候補している選挙区に投入している。
さらに情勢は厳しくなりそうで、海江田氏はこういった自民党の手法に「あんなのは戦略とは言えませんよ、嫌がらせですよ」と露骨に不快感を示した。
「A氏とB氏が競っている」という表現では先に出てくるA氏が優勢
衆院選公示以降、選挙区ごとの情勢調査の結果を紙面に掲載したのは日経、読売、毎日の3紙だ。日経と読売は12月2~3日に行った世論調査の基礎データを共有し、データの集計、分析は独自に行った。毎日の調査は12月5~7日にかけて行われた。
情勢調査では、例えば「A氏とB氏が競っている」という表現の場合、一般的には先に名前が登場するA氏の方がリードしているとされる。民主党の海江田万里代表が出馬している東京1区に関する表現は、こうなっている。
「再選を目指す山田と党代表の海江田が小差で競り合う」(読売)
「山田が自民支持層の7割の支持を固め、会社員、自営業者、主婦層など幅広い支持を得て先行。海江田は民主支持層の8割近くを押さえたが、無党派層などへの広がりを欠き、苦しい戦い」(日経)
「山田氏と海江田氏が激しく競り合っている」(毎日)
3紙で濃淡の違いがあるものの、自民党の山田美樹氏が先行しているというニュアンスでは共通している。埼玉5区から出馬している枝野幸男幹事長については各紙で判断が割れているが、自民党の牧原秀樹氏との厳しい戦いを強いられているのは間違いない。
「枝野と牧原がしのぎを削る争い」(読売)
「牧原と枝野が接戦を展開」(日経)
「知名度があり幅広い世代から支持を集めて先行する枝野氏を、牧原氏が猛追する」(毎日)
09年の衆院選では、公明党の太田昭宏代表(当時)と北側一雄幹事長(同)が落選し、党の役職も辞任に追い込まれている。海江田氏は12年の衆院選では小選挙区で落選し、比例東京ブロックで復活当選している。
旧みんなの党、元幹部で明暗分かれそう
自民党は、埼玉5区に続々と大物議員を送り込んでいる。ざっと名前を挙げると石破茂地方創生担当相(11月30日)、三原じゅん子女性局長(12月1日)、小泉進次郎復興政務官(12月2日)、菅義偉官房長官(12月5日)、小池百合子元防衛相(12月6日)、谷垣禎一幹事長(12月7日)、安倍晋三首相(12月9日)といった具合で、総力戦に近い状況だ。
東京18区の菅直人元首相は、自民党の土屋正忠氏に相当なリードを許していると読み取れ、比例で復活できるかどうかが焦点だ。
「4度目の戦いとなる土屋と菅が激戦を展開」(読売)
「連続当選を狙う土屋がリード。主婦層の支持を広げる。元首相の菅は知名度を生かし、会社員や自営業者の支持拡大を急ぐ」(日経)
「土屋氏がリードし、元首相の菅氏が追う」(毎日)
解党したみんなの党は、元幹部の間で明暗が分かれそうだ。結いの党から維新の党に合流した江田憲司氏(神奈川8区)や、解党時の代表だった浅尾慶一郎氏(神奈川4区)は、3紙とも優勢を伝えている。半面、「創業者」の渡辺喜美氏は
「簗と渡辺の接戦」(読売)
「簗と渡辺が競り合う」(日経)
「簗氏が優勢」(毎日)
小沢氏についても厳しい調査結果
かつて「小沢王国」と呼ばれた岩手4区にも地殻変動が起きている。読売、日経は
「16選を目指す小沢と藤原が予断を許さない展開」(読売)
「小沢と藤原が激しく競い合う」(日経)
と伝えている。生活の党の小沢一郎代表が、かろうじて自民党の藤原崇氏を破るとみているようだ。毎日新聞の結果は、さらに小沢氏にとって厳しい内容だ。
「若さをアピールする藤原氏が幅広い年代に浸透し、一歩リード」
「小沢氏は後援会の高齢化、党の縮小が影響し、勢いに陰り」
加えて、生活の党についても
「比例代表も伸びず、公示前勢力(5議席)の維持は困難だ」
と、比例区で議席獲得は難しいという見通しだ。小沢氏にすれば、小選挙区で落選した場合、比例区でも復活できない可能性があるという前代未聞の事態だ。
3紙以外にも、産経が12月10~11日、朝日が11日に選挙区ごとの情勢調査の結果を掲載予定だ。
自民党は、枝野氏以外の民主党幹部の選挙区にも続々と大物議員を応援に送り込んでいる。こういった自民党の動きについて、海江田氏は12月9日夕方、東京・四ツ谷駅前での街頭演説を終えた後、
「あんなのは戦略とは言えませんよ、(自民のやり方は)嫌がらせですよ。戦略というのは、もっと大所高所から問いかけることで、嫌がらせですよ」
などと不快感を示した。この日、海江田氏は公示から初めて自らの選挙区に入り、街頭演説を行った。海江田氏は「地元は温かい」と手ごたえを感じながらも、「楽な戦いは1回もない」と、厳しさを実感している様子だった。