朝日だけじゃなかった「吉田証言」、北海道新聞も取り消し 他の全国紙やブロック紙「ほおかむり」いつまで?

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   故・吉田清治氏が朝鮮人の女性を強制連行したと嘘の証言をした「吉田証言」をめぐる報道を朝日新聞が2014年8月まで取り消さなかった問題は、他の大手紙などにも波及することになりそうだ。

   北海道新聞が14年11月17日の朝刊1面に「『吉田証言』報道をおわびします」と題して社告を掲載し、2ページにわたって特集を掲載したからだ。全国紙に次ぐ規模のブロック紙が吉田証言問題で謝罪するのは初めて。道新以外にも継続的に吉田氏の動向を報じたメディアは多く、今後検証作業を迫られることになりそうだ。

「検証が遅れ、記事をそのままにしてきたことを読者の皆さまにおわび」

北海道新聞の1面に掲載された社告。検証が遅れ、記事をそのままにしてきたことを読者の皆さまにおわびし、記事を取り消します」としている。
北海道新聞の1面に掲載された社告。検証が遅れ、記事をそのままにしてきたことを読者の皆さまにおわびし、記事を取り消します」としている。

   特集記事によると、1991年11月から93年9月にかけて8回掲載していた。そのうち1回は共同通信配信の記事を掲載した。吉田氏が最初に登場したのは91年11月22日朝刊で、吉田氏に直接取材した内容を「朝鮮人従軍慰安婦の強制連行『まるで奴隷狩りだった』」という見出しで報じた。この記事を韓国の東亜日報が取り上げたことも記事化した。その後、92年に吉田氏を証人や参考人として国会に招致しようとする動きや、吉田氏がソウルを訪問する様子も伝えた。

   最後に吉田氏が道新の記事に登場したのは93年9月14日。慰安所担当だった元日本軍下士官と元慰安婦女性が札幌で対面したことを伝えた9月13日の記事の反響を伝える続報で、吉田氏が

「慰安所の実態はあの通り。50年間の沈黙を破る歴史的な証言だ」
「国民的な反省と謝罪をしないと、反日感情がどんどん再生産されてゆく」

とコメントしていた。

   2014年11月17日1面の社告では、一連の記事について

「調べた結果、その証言内容は信憑(しんぴょう)性が薄いと判断しました。検証が遅れ、記事をそのままにしてきたことを読者の皆さまにおわびし、記事を取り消します」

と説明している。

西日本「朝鮮人慰安婦を日本に強制連行してきた日本側の『生き証人』」

   今後注目されるのが、他紙の対応だ。道新が記事を取り消すことになった国会招致やソウル訪問の件は、他紙も報じているからだ。

   例えばソウル訪問は、少なくとも西日本新聞、毎日新聞、中日新聞の3紙が記事化している。西日本新聞(1992年8月13日)によると、吉田氏は元慰安婦の女性を前に

「(慰安婦狩りは)50人ぐらいの日本人警察官が韓国人の警察官を引率して村を回る。村は泣き叫ぶ声でパニック状態になる」
「あなたの前で土下座しておわびしたい」

などと話したという。

   国会招致の試みは、やはり西日本新聞が92年3月5日、3月22日の2度にわたって報じている。3月5日の記事では、吉田氏を

「朝鮮人慰安婦を日本に強制連行してきた日本側の『生き証人』として、衆院予算委員会で初めて当時の状況を証言することになっていた元山口県労務報国会運動部長、吉田清治さん(78)=千葉県在住=」

と、かなり長い「枕詞」つきで紹介し、3月22日の記事では、吉田氏の参考人招致が自民党の反対で見送られたことを批判する論調を展開した。

「わが国の『負の歴史』を日本人の手で国会の場で明らかにするものとして注目された吉田さんの参考人招致だったが、元慰安婦による損害賠償請求訴訟への影響や「日本の体面」にこだわる自民党の抵抗は、予想以上に強かった」

読売も吉田氏が「百人の朝鮮人女性を海南島に連行したことなどを話した」と伝える

   全国紙も吉田氏の発言を取り上げている。吉田氏は、92年8月15日に大阪市内で開かれた集会に出席。読売新聞は大阪本社版で、その様子を

「山口県労務報国会下関支部の動員部長だった吉田清治さん(78)、中国で慰安所の開設を担当した永富博道さん(76)ら5人が当時の状況を証言。『暴力で、国家の権力で、幼児のいる母親も連行した。今世紀最大最悪の人権侵害だった』などと述べた」

と報じた。東京本社版は、さらに吉田氏の発言を詳しく報じている。

「山口県労務報国会下関支部の動員部長だった吉田清治さん(78)ら5人が当時の状況を証言した。吉田さんは『病院の洗濯や炊事など雑役婦の仕事で、いい給料になる』と言って、百人の朝鮮人女性を海南島に連行したことなどを話した」

   日経新聞の大阪本社版でも集会の様子を伝えている。

「朝鮮人強制連行に直接携わった吉田清治さん(78)=千葉県在住=は『彼女たちの人間性を心身ともに踏みにじった一人として、謝罪に残りの人生をささげたい』と語った」

   産経新聞も93年9月1日、大阪本社版の連載で「加害終わらぬ謝罪行脚」の見出しで、吉田氏が元慰安婦女性に謝罪している写真を掲載している。この連載は、後に「第1回坂田記念ジャーナリズム賞」を受賞し、書籍化もされている。

赤旗は謝罪・取り消し、TBSは「番組全体としては偏っておらず特段問題ない」

   一連の報道について、西日本新聞は朝日新聞が吉田証言関連記事の取り消しを発表した直後の2014年8月7日に、同社の見解を掲載している。

「1990年代初めに共同通信配信の記事を含め『訪韓して元慰安婦に謝罪』『国会の参考人招致見送り』などの記事を掲載しましたが、その後、吉田氏の証言に疑義が呈されたため、以降は吉田氏の証言に基づく報道はしていません」

   8月5日の朝日新聞の検証記事では、他紙の報道にも言及している。この記事の中で、毎日新聞は過去の報道について

「いずれの記事も、その時点で起きた出来事を報道したものであり、現時点でコメントすることはありません」

とコメント。

   産経新聞は朝日新聞の特集記事の中で、

「当該記事では、吉田清治氏の証言と行動を紹介するとともに、その信ぴょう性に疑問の声があることを指摘しました。その後、取材や学者の調査を受け、証言は『虚構』『作り話』であると報じています」

と反論している。

   読売新聞は朝日新聞の取材には回答しなかったが、朝日の検証記事について報じる8月5日の記事には自社コメントが載っている。

「今回の朝日新聞の特集記事に関し、朝日新聞社から、本紙の過去の記事について、現時点での認識を尋ねる質問がありました。しかし、報道機関による自らの検証作業と、他の報道機関に過去の報道についての見解を求めることは全く別の問題であるため、回答を控えました」

   これ以外にも、日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」も9月27日の紙面で、1992年から93年にかけて3回にわたって吉田氏の証言や著書を取り上げたとして、記事を取り消して謝罪した。

   TBSテレビは2014年10月1日の社長定例会見で、「報道特集」で1984年と91年の2度にわたって吉田氏のインタビューを放送したほか、92年の訪韓もニュースとして取り上げたことを明らかにした。ただ、石原俊爾社長は、吉田氏の証言は「複数ある証言の一つとして使った」として、「番組全体として偏っているとは思っていない。特段の問題があるとは考えていない」としている。

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