西アフリカからスペイン、米国へと感染が広がっているエボラ出血熱。現時点では感染者が出ていない日本も、対岸の火事ではなくなってきた。
国内の医療関係者は万一に備えているが、ひとつ気になる事実がある。エボラウイルスを患者から分離して調べ、感染の有無を確定する機関が国内ではひとつも稼働していないのだ。
国内2か所の施設は稼働していない
厚生労働省は、エボラ出血熱の流行地域への渡航者や帰国者に対して空港で注意喚起を実施。特に西アフリカから日本に到着した人に対して健康状態を確認し、「水際対策」を進めている。だが、空港の検疫所での健康確認は旅行者の申告制で強制ではない。これ以上の対策が難しいのが現状のようだ。
エボラ出血熱の感染者が見つかった場合、国内では全国45施設の「感染症指定医療機関」で対応する。2014年10月15日放送の「報道ステーション」(テレビ朝日系)では、指定機関のひとつである横浜市立市民病院を取り上げた。医療スタッフが患者の搬送に備えて日々研修に励み、また米国で医療従事者が2次感染したことから、治療の際に身に着ける防護服の着脱手順の見直しを進めている様子が紹介された。
だが、国立感染症研究所の「エボラ出血熱診断マニュアル」にはこのような記述がある。
「エボラウイルス感染症のウイルス学的検査は、国立感染症研究所(村山庁舎)ウイルス第一部第一室において可能である。国立感染症研究所においては、現在のところ感染性のあるエボラウイルスの取り扱いが認められていない」。
どういうことなのか。
世界保健機関(WHO)は、細菌や病原体をリスクに応じて4段階の「バイオセーフティーレベル(BSL)」に分類している。日本でもこの基準が用いられ、エボラウイルスは有効な治療法が確立しておらず致死率も高いことから、最も危険な「BSL-4」に位置付けられている。
国内には、国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)と理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)に、BSL-4に対応する高度な安全性を備えた施設がある。ところが住民の反対により、今日まで稼働していない。つまり今のままでは、国内では患者からエボラウイルスを取り出し、その患者がエボラ出血熱に感染していると確定する診断を下せないのだ。