御嶽山の噴火による被害拡大が、経済評論家の勝間和代氏(45)のバッシングに発展している。
2010年に行われた火山観測事業の事業仕分け時に、勝間氏が「大規模噴火は数千年に1度なのに24時間の監視が必要なのか」と指摘したことに合わせ、御嶽山が仕分けによって常時監視の対象から外れたなどの誤解が広がっているためだ。
「あんたの仕分けが無ければ」ツイート続々
取り沙汰されている発言は、2010年6月に気象庁で開かれた国土交通省対象の事業仕分け「行政事業レビュー」の時のもの。全国の活発に活動する火山に高精度の観測機器を設置する整備事業が議題に上った際、勝間氏ら「仕分け人」は厳しい追及を重ねた。この仕分けにより火山観測事業には予算効率化などの「抜本的改善」が求められることとなった。
公開されている仕分け時の映像を確認すると、勝間氏は気象庁が24時間連続で監視する火山を34から47に増やすことに触れ、下記のように発言していた。
「たとえば(新たに対象となる)秋田焼山。ここ300年間に約9回の小規模な水蒸気噴火はあったものの、大規模な噴火は数千年前に起きたきり。その場合でも24時間体制というのはどういう理由で必要なのでしょうか」
この発言は、2010年7月6日付の朝日新聞も特集記事の中で取り上げていた。加えて記事の後半部分には「長野県と岐阜県境で79年に有史以来初めて噴火し、91年、01年にも小規模な噴火を繰り返している御岳山でさえ、観測強化の対象から外された」という一文があった。
この記事の記述などをもとに、インターネット上では御嶽山が噴火した2014年9月27日以降、「事業仕分けがなければ、今回の大規模被害は防げたのではないか」という見方のもと「民主党叩き」「勝間叩き」が巻き起こった。
勝間氏のツイッターアカウントにも「あんたの仕分けが無ければ助かっていた可能性のある命が失われたのに」「あなた方の仕分けで人死にが出たことについて、道義的責任は免れないと思います。コメント下さい」といった非難や疑問の声が寄せられた。
加えて自民党の片山さつき参議院議員も28日、長野県の某町村長との話として「22年の民主政権事業仕分けで常時監視の対象から御嶽山ははずれ、政権奪還後漸く予算共々少し戻せたが、この状態では『予知困難』と気象庁も連絡会も言うだろう」などとツイート。事業仕分けによる御嶽山への影響を強調した。
現在も24時間監視が行われている
ところが朝日新聞の記事を通して読んでみると、多くの人たちが指摘している点が誤解であることが分かる。「御嶽山が観測強化の対象から外された」という記述の前には「文部科学省は08年、大学が観測している全国の33火山のうち、活動が盛んな16火山で観測を強化する方針を打ち出した。残りの17火山については大学の裁量に任せ、支援はしない」という話が書かれているのだ。
気象庁の火山観測は同庁だけで完結するのではなく、大学等研究機関や自治体、防災機関などからのデータ提供によって補われている。つまり「御嶽山を対象から外した」というのは、あくまで文科省が火山観測の一端を担う大学に向けて打ち出した2008年の方針に過ぎず、国土交通省の2010年の事業仕分けの話ではない。一部まとめサイトなどではこの部分が「(中略)」として削られていたため、混同した人が少なくなかったようだ。ちなみに2008年時の政権は自民党である。
では御嶽山の監視はどうなっているかというと、気象庁のホームページに詳しい説明がある。御嶽山は火山噴火予知連絡会が47火山を選出した「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」の一つになっており、現在も24時間監視が行われている。さらに47のうち30火山で運用されている「噴火警戒レベル」の対象にもなっている。
こうした事情を考慮すれば、事業仕分けによって火山観測の予算が減ったとはいえ、御嶽山の被害拡大と事業仕分けに直接の因果関係があると断定するのは難しいだろう。
28日には勝間氏の所属事務所がバッシングに対する見解を公式サイトに掲載した。問題視されている発言については「この当時の発言の真意は、『費用削減のためには、火山が噴火して人が死んでもいい』という意味ではもちろんありません」とした上で、
「火山の噴火を人工的に止める手段がない上、いくら精密に監視をしても噴火を100%予測することは不可能である以上、噴火による被害を減らすために、産学連携などで噴火予測により効果的な費用配賦方法があるのではないかという問題提起です」
などと説明した。