日本経済新聞が「もたつく景気回復」の連載を開始した。
2014年9月8日付1面が、その第1回。「消費、シニア・外国人頼み」の見出しが躍り、3面には、「『7~9月の景気回復、期待下回る』経産相 悪天候など指摘」と、景気の腰折れ懸念を伝えている。
景気回復、「前向き」報道が目立っていた
日本経済新聞の連載「もたつく景気回復」は、景気が「安定成長に戻り、脱デフレの道筋を確実にするための課題を点検する」のが主旨のようだ。
第1回は、消費増税後に足踏みが続く消費を、高齢者と外国人が下支えしているようすを伝えているほか、「消費の減速感は地方で一段と強い」と、クルマ社会の地方では消費増税とガソリン価格の値上がりで大型量販店の売れ行きが落ちていると報じている。
さらに、3面では甘利明経済再生相が「7~9月の(景気の)回復力は期待よりもおだやか」との認識を示したことを報じ、4面の特集記事「核心 ~消費再増税の通りゃんせ~」では「自動車や家電など耐久財や住宅なら駆け込みの反動というのもわかるが、食品をはじめ非耐久財の売り上げもパッとしない」とこぼしている。
加えて、14面では「サーベイ ~人手不足『そう思わない』57%~」との見出しで、この結果が「意外だった」しながらも、「個人の心理が明るくなっているかというと、いまひとつのようだ」とみている。
実際に、国内景気はさえない。たとえば、厚生労働省の毎月勤労統計調査(速報値)によると、7月の現金給与総額の平均は36万9846円と前年同月に比べて2.6%増えた。しかし、物価変動分を考慮した実質水準でみると、現金給与総額は前年同月比1.4%減と13か月連続のマイナスだ。
賃金上昇のペースは、消費増税の転嫁分を含めた物価の上昇に追いついておらず、日経も「持続的に賃金が上がって企業の生産活動が活発化、それがまた賃金上昇につながるという好循環はまだ先だ」(9月8日付14面)と報じている。
いずれにしても、これまで消費増税とそれに伴う駆け込み需要の反動減について、日経は「影響は和らぎつつある」「景気は夏以降に回復する」などと強気に、前向きに報じてきた。それをようやく、消費回復が「鈍い」ことを認めざるを得なくなったようにみえる。
第一生命経済研究所経済調査部のエコノミスト、藤代宏一氏は、「(日経の『もたつく景気回復』の報道は)明らかにトーンが変わりましたね」と、話している。
「期待」が消費者をつなぐ?
2014年9月8日、内閣府は4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率を、前期比年率6.8%減から7.1%減へ下方修正した。8月に速報値を発表した後に、運輸や金融業を中心に設備投資のマイナスが想定よりも大きかったことがわかったためという。
また、8月の景気ウオッチャー調査(街角景気)では、足もとの景気実感を示す現状判断指数が前月比3.9ポイント低下の47.4と4か月ぶりに悪化した。
これらをみると、とても景気が回復基調にあるとは思えない。
日本経済新聞は9月7日付1面の「景気回復もたつく」でも、見出しとは裏腹に、「消費増税後の落ち込みは一時的で『景気は穏やかながら回復する』との見方が多い」と強調。さらには、家電量販店のケーズホールディングスの加藤修一会長の言葉を借りて、「『企業業績の改善と給与増でこれから景気は良くなる』と先行きに期待を寄せる」と、景気回復への「期待感」を前面の押し出し、報じた。
「景気ウオッチャー調査」などをみれば、景気回復は実感できないが、日経の報道をみると、なんとなくでも景気が回復しているように感じる。とはいえ、消費者の多くは、「景気がいいのか悪いのか、わからない」というのが本音かもしれない。
前出の第一生命経済研究所の藤代宏一氏は、「エコノミストの予想より、増税の影響が強いことは間違いありません。ただ、反発力は弱いものの、じんわりと(景気は)持ち直しているのも事実です。たとえば、中小企業DIなどの指標をみると、企業が予定していた設備投資をやめたり、消費者が必要以上に財布のひもを締めようしたりするほど、苦しんでいるとはいえません」と話す。
先行きへの期待感だけが、かろうじて消費者をつないでいるということらしい。