朝日新聞は2014年9月6日付朝刊で、池上彰さんのコラム掲載中止問題について、改めておわびし経緯を説明した。
識者などによる「掲載中止の経緯を明らかにすべき」との声に応えたものと見られる。しかし、「説明が不十分」「言い訳めいている」との批判も出ている。
「朝日関係者への脅迫激化を懸念」と自己弁護
「8月5、6日付朝刊で慰安婦問題特集を掲載して以来、(中略)関係者への人権侵害や脅迫的な行為、営業妨害的な行為などが続いていました」
朝日新聞は記事の中で、上記のように自身の置かれた立場を説明する。
1100字超に上る東京本社報道局長名義のこの「おわび」と「説明」は、時系列に沿って一連の騒動の流れを述べている。これによれば8月27日、29日付朝刊に掲載するための原稿を池上さんから受け取ったものの、上に引用したような慰安婦問題特集以来の「人権侵害や脅迫的な行為、営業妨害的な行為」が「激化することを懸念するあまり」、「池上さんの原稿にも過剰に反応してしまいました」という。
28日、池上さんに「修整」の余地があるかどうかを打診。このあたりからの流れはすでに報じられている通りで、池上さんが「原稿の骨格は変えられない」としたため29日付朝刊での掲載を取りやめ、この際に池上さんは連載を終了する考えを示した。その後も引き続き連絡を取る約束をしたが、1日に「やりとりが外部に伝わった」ことで事態が発覚、そして4日付朝刊で池上さんの意向を踏まえた上で改めて掲載した。
なお連載続行について池上さんは「白紙」としているが、「これからも誠意を持って話し合いを続け、対応と結果については改めてお知らせします」としている。
江川紹子さんや現役記者も首かしげる
今回の「説明」では、掲載中止の流れについて詳述しており、映画作家の想田和弘さんのように、「経緯の説明は充分ではないが、僕はかなり率直で真摯な文章だと思った」と一定の評価をする向きも皆無ではない。
しかし、たとえば池上さんの原稿に「過剰に反応」した主体は誰だったのか、求めた「修整」の内容はどのようなものだったのか、など、肝心のディテールが明らかになっていない、との指摘が多勢を占める。
ジャーナリストの江川紹子さんは「説明になっていない」と、ツイッターで手厳しく論評している。
「『過剰に反応』したのは分かるが、原稿のどこを問題視したのか、誰の判断だったのか、などの言及なし。朝日新聞は、危機管理の優れた専門家にアドバイスを受けた方がいい」
またジャーナリストの菊池雅志さんもやはりツイッターで、今回の「説明」に朝日新聞の「被害者」意識が見えると指摘する。
「朝日新聞は『慰安婦問題で我々は右派勢力から不当な攻撃を受けている被害者である』という認識なんだろうか。先週の田原総一朗氏の記事(編注:BLOGOSに8月27日掲載のインタビュー)もそういうノリだったが、あそこら辺が朝日の本音だとすると、なかなか遠い道のりである……」
今回の問題では、朝日新聞の現役記者がツイッターを通じて自社批判の声を上げたことが話題となった。今回の「説明」にも、東京社会部東京総局の原田朱美さんが、
「私は(1)言い訳がましい、(2)元は自社の誤報が原因なのにあたかも朝日を攻撃する人のせいでこうなったと責任転嫁している(3)誰が掲載をやめろと指示したのかわからない、という点でおかしいと思います」
と3点を挙げて批判。安芸支局長の根岸敦生さんも「1記者として、の意見」と断ったうえで、「実際に拝見した記事の内容と今回の『掲載見送り』を決めた判断基準の落差が、いまだに分かりにくいです。続報を待ちたい」とコメントした。