慰安婦問題の誤報を「謝罪すべきだ」とした池上彰さんの連載原稿については、朝日新聞は、掲載拒否の誤りを認めて謝罪した。しかし、慰安婦誤報そのものについては、いまだに謝罪がないのはなぜなのだろうか。
「過ちを訂正するなら、謝罪もするべきではないか」。拒否から一転掲載された池上彰さんの連載「新聞ななめ読み」では、朝日新聞の慰安婦報道検証記事についてこう苦言を呈した。
世論の7割「誤報が日本の評価を貶めた」
朝日新聞は、検証記事で、吉田清治氏が慰安婦の強制連行を証言したとする一連の報道に誤りを認め、それらを取り消した。池上さんは、これに対し、遅ればせながら過去の報道を朝日が自己検証したことを評価した。「裏付けできなければ取り消す。当然の判断です」として、朝日が報道を訂正したことも支持している。
しかし、そこに謝罪の言葉がなかったことについては、「せっかく勇気を奮って訂正したのでしょうに、お詫びがなければ、試みは台無しです」と嘆いた。
さらに、池上さんは、検証記事そのものも不十分だったことを強く指摘した。それは、産経新聞が1992年に吉田証言に疑問を呈したとき、朝日は証言の裏付けがないことに気づいていながら、そのときになぜ訂正・謝罪をしなかったのか、についての検証がなされていないからだ。
朝日が今になって訂正したことについては、「遅きに失したのではないか」と厳しく批判している。
慰安婦報道の誤りが長年放置されたことについて、読売新聞の世論調査によると、国際社会における日本の評価に「悪い影響を与えた」と思う人が71%にも達している。それだけ不満が強いわけだ。
にもかかわらず、木村伊量(ただかず)社長ら朝日の幹部が誤報したことすらいまだに謝罪しないのはなぜなのか。92年ごろの時点で訂正しなかった理由について、検証作業で分からなかったのか。
名誉棄損による集団訴訟の動きが出る?
こうした点について、朝日新聞社の広報部に取材すると、次のようなコメントが返ってきただけだった。
「読者にお伝えしなければならないと判断した事柄については、当社の紙面や朝日新聞デジタルでお知らせします」
謝罪しない理由については、憶測の範囲を出ないものの、経済学者の池田信夫さんはブログで、「それは謝罪したら、木村社長の進退問題になるからだ」と指摘した。池上彰さんの原稿問題に至っては、社内からはツイッターでの批判を超えて責任を問う声まで高まっていると報じられており、さらに謝罪しづらい雲行きになっているのかもしれない。木村伊量社長が記者会見して説明するのも、ハードルが高そうだ。
とはいえ、報道の誤りを放置したことの責任を問う声は、社外からも確実に高まっているようだ。
週刊新潮の2014年9月4日発売号によると、法曹やマスコミの関係者から朝日に対して集団訴訟を起こそうという動きが出てきた。慰安婦の強制連行があったかのような誤報による名誉棄損で損害賠償などを求めるというのだ。記事では、10~20人の新聞購読者からなる原告団を結成し、1年後にも訴訟を起こすことを検討しているとする。さらに、100万人単位で補助参加人の署名を募ることも考えているという。
ネット上では、日本軍兵士らの遺族らの被害を訴えれば、十分訴訟になるのではないかとの声も出ている。