済州島で若い女性が強制連行されたとする、いわゆる「吉田証言」が「虚偽」だと朝日新聞が認めて20日以上が経っても、朝日新聞への批判は収まりそうもない。朝日は2014年8月28日の紙面で、吉田証言の内容は1993年の河野談話には反映されていないなどと釈明する記事を掲載したが、各紙はいっせいにこの記事を批判。完全に裏目に出た格好だ。
朝日新聞に近い論調になることも多い毎日新聞ですら記事を批判するという異例の事態に発展している。
読売は連載「検証 朝日『慰安婦』報道」スタート
朝日新聞は8月5日の紙面で吉田証言が虚偽であると結論付けたが、吉田証言が初めて報じられた1982年から訂正まで32年もかかったことになる。この32年の間に、「日本が組織的に強制連行を行った」という誤った認識が国際的に広がったという批判は根強い。
慰安婦問題をめぐっては、以前から産経新聞が朝日新聞の批判を続けていたが、今回の吉田証言をめぐっては、産経新聞以外も朝日批判を展開している。
例えば読売新聞は8月28日朝刊の1面で「検証 朝日『慰安婦』報道」と題した連載を開始。その趣旨を「戦後、例がないほど日本の負の遺産をもたらした朝日『慰安婦』報道を検証する」と説明した。毎日新聞も、8月26日発売の「サンデー毎日」9月7日号で「朝日新聞慰安婦問題 なぜか『声欄』に『投書ゼロ』の不思議」と題した記事を掲載し、朝日新聞の投書欄で吉田証言の問題が取り上げられなかったことを皮肉った。
新聞以外にも、週刊文春、週刊新潮など主要週刊誌が朝日批判キャンペーンを展開している。
朝日新聞も、批判にまったく答えなかったわけではない。8月28日朝刊に「慰安婦問題 核心は変わらず」と題した記事を掲載し、「強制性」を認めたとされる1993年の河野談話について、
「日本政府は河野談話の作成過程で、吉田氏をヒヤリングの対象としたものの、その証言内容を談話に反映しなかった」
と報じた。記事の中では、日韓関係を担当した韓国の元外交官のコメントも載っている。その内容は
「韓国政府が慰安婦問題の強制性の最大の根拠としてきたのは元慰安婦の生の証言であり、それは今も変わっていない。吉田氏の証言が問題の本質ではありえない」
というもので、吉田証言が慰安婦問題の「強制性」の認識に与える影響が小さかったという趣旨だ。
少なくとも3紙が朝日「釈明」記事を批判
翌8月29日には、少なくとも3紙がこの記事を批判し、完全に火に油を注いだ格好だ。
産経新聞は「また問題すり替え」という見出しの特集記事で「自社が積み重ねた誤報や歪曲報道を枝葉末節の問題へとすり替えたいのだと読み取れる」とした。読売新聞は、連載第2回の記事以外に「批判回避へ 論点すり替え」と題した特集記事を掲載。小見出しには「吉田証言 韓国・国連が依拠」と掲げ、朝日記事に真っ向から反論した。記事では、産経新聞が92年に吉田証言の信ぴょう性に疑問を投げかけた直後に朝日新聞が誤報を訂正し「強制連行」を否定していれば、
「国際社会に誤った認識が広まることを防げた可能性があると指摘する声は少なくない」
と主張した。
毎日新聞も朝日新聞の記事を取り上げたが、
「しかし、96年に国連人権委員会に提出された『クマラスワミ報告』は、強制連行の証拠として吉田氏の証言に言及し、日本政府に国家賠償を求めた。今回の記事はこうした事実には触れていない」
とも指摘しており、重要な論点に触れていないことについて読売新聞と同様の批判を展開している。