連日熱戦が続く夏の全国高校野球大会で、話題となる一戦があった。高崎健康福祉大高崎(健大高崎、群馬)が利府(宮城)を10-0で破った試合だ。健大高崎が大会記録に迫る1試合11盗塁と、機動力を存分に発揮した。
一方で、大量リードした場面でも盗塁を試みたことから「やり過ぎでは」の批判がインターネット上に出た。米大リーグでは同様の場面での盗塁はタブーとされるが、高校野球にまで適用されるべき「掟」だろうか。
「点取れるときに取ろうとするのは当たり前」
健大高崎は初回から3盗塁を決めて3点を先取。その後も足を絡めて得点を重ね、7回を終わって8-0と利府を突き放した。だがこれで終わらなかった。8回裏も2死1塁から走者が二盗を成功させている。2点を加えて10-0になった後も、塁に出た選手が盗塁を試みたが、この時は失敗した。
機動力で相手を徹底的に打ち負かすのは、健大高崎が目指す攻撃スタイルだ。ネット上の意見を見ると、大半は同校の戦術に理解を示すが、一部では「盗塁やり過ぎ」「そこまでしなくても」と首をかしげる向きもあった。こうした意見を取り上げたネットニュースは、「大リーグの不文律」を示した。ルールブックに記載されているわけではないが、大差がついた試合で終盤に盗塁をしないのが暗黙の了解なのだという。仮に破ると、後に相手から死球などの報復が待っているそうだ。
1990年代後半以降、日本人大リーガーが続々と誕生し、テレビの試合中継が増えて日本人ファンにとって大リーグは身近になった。大リーグで長年守られてきた「暗黙の決まりごと」も紹介され、野球関係者の間に浸透していく。本塁打を打っても大げさに喜んではいけない、ノーヒットノーランや完全試合阻止のためにバントヒットを狙ってはいけない、とさまざまだ。現ニューヨーク・ヤンキースのイチロー選手は2001年に大リーグ入りした際、打席でバットを相手投手に向けて立てる構えが「挑発的だ」と言われたこともあった。
日本のプロ野球は2008年、点差が開いた試合での終盤の盗塁は記録として認めないとルール化した。「本場米国のしきたり」に歩調を合わせたともいえる。しかし高校野球はアマチュアだ。しかも年間100試合以上あるプロと違って、夏の甲子園は「負けたら終わり」のトーナメント。
「高校野球に大リーグの掟を当てはめるのはナンセンス」と、スポーツジャーナリストの菅谷齊氏は話す。「高校野球の規則に、『大量点を取ったら盗塁してはいけない』とは書かれていません。一発勝負の厳しい戦いのなかで、取れるときに点を取っておこうとするのは当たり前でしょう」と続けた。