理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長がSTAP細胞論文の共著者である小保方晴子氏に宛てたという遺書の内容は、自殺から数日後には「関係者」の話として大手マスコミに報道された。
理研や小保方氏側は内容を公表していないとしており、個人宛ての遺書内容が結果的にリークされ相次ぎ報じられたことに、違和感を持ったという世間の声も少なくないようだ。
理研「ご遺族の意向を踏まえ」明らかにせず
複数の遺書の存在については、自殺の第一報が出た2014年8月5日午前の段階で明らかにされていた。その後、1通は小保方氏宛てのものであることが分かり、その後多くの媒体が遺書の詳細を伝えた。
文章は約20行。A4サイズの用紙1枚にパソコンを使って書かれていたという。中身は断片的で、媒体ごとに多少違いがあるが、
「もう限界を超え、精神が疲れはてました」
「もう心身とも疲れ、一線を越えてしまいました」
「一人闘っている小保方さんを置いて」
「こんな事態になってしまい、本当に残念です」
「私が先立つのは、私の弱さと甘さのせいです。あなたのせいではありません」
「自分をそのことで責めないでください」
「絶対、STAP細胞を再現してください」
「それが済んだら新しい人生を一歩ずつ歩みなおしてください」
といった記述があったとしている。
出所については、多くの媒体が「関係者」とするのみだったが、読売新聞や一部報道番組などでは「警察関係者」としていた。さらに小保方氏の代理人である三木秀夫弁護士は8月6日、遺書は小保方氏の手元に届いておらず、兵庫県警が預かっていると述べたという。これらを考慮する限りは、いずれも警察側から漏れたとの見方が自然のようだ。
また、三木弁護士は翌7日、内容が先行して報じられていることに「なぜか分からない」「おかしなことだと思っています」などと話し、怒りをにじませたという。
理研も8日になって、
「一部のメディアから遺書の内容と思われる報道がなされていますが、ご遺族の意向を踏まえ、理研及び小保方研究ユニットリーダーからは、遺書の内容については一切明らかにしておりません」
とのコメントを公式サイト上で発表した。
報道は、小保方氏側にとっても笹井氏の遺族にとっても意に反するものだったということのようだ。
弁護士も苦言「少し行き過ぎ」
一連の報道を受け、インターネット上には
「ケーサツだったら人様の遺書を勝手にブンヤに垂れ流してもええんか」
「遺書つーのは信書じゃないのか?警察の一存で内容をリークしても良いものなのか?」
「警察庁は手紙泥棒か。『通信の秘密』など、守らなくてよいのか」
などと警察に対する批判的な意見が相次ぎ投稿されている。
演出家の鴻上尚史氏も9日放送の「新・情報7daysニュースキャスター」(TBS系)の中で、
「遺族の許可もなく、差し出された人がもらう前に、亡くなってから3時間後に警察がマスコミに概要を発表して、それをマスコミが警察発表通りにやって(報じて)いくというのは、これはいいのか」
などと、警察とマスコミ双方に対して疑問を呈した。
元東京地検検事で弁護士の若狭勝氏は7日放送の「デイ・キャッチ」(TBSラジオ)の中で、
「遺書というのは極めて内々の秘密にわたることもあるので、警察がマスコミに発表するというのは捜査においての必要性があまり感じられないわけですから、少し行き過ぎというか問題があるというように感じます」
と解説。
自殺と断定できていない段階では、警察が捜査の観点から遺書を調べることもあり得るが、そこで知り得た情報をマスコミに勝手に漏らすことは問題とのことだ。
なお、法律の観点からは
「民事的には小保方さん側が警察に対して、秘密にわたることを勝手に公にしたという形で賠償を求めることはあり得ると思います」
と指摘した。