中国は領土問題を巡り、日本だけでなくフィリピンやベトナムにも攻勢を強めている。2014年5月、中国の大型船がベトナムの漁船に体当たりして沈没させた。ベトナムでは激しい「反中デモ」が起き、両国関係は緊張が続いている。
ベトナムにとって中国は、過去1000年もの間に何度も戦火を交えてきた、決して油断できない相手だ。漁船沈没以来、人々は中国に対して「ここまでやるのか」という怒りと恐れが増している。
西沙諸島の試掘開始で「潮目」が変わった
ベトナムは、外国から繰り返し侵攻を受けた苦難の歴史を持つ。中国やフランス、日本、米国に占領され、戦争で多大な被害を出した。国立大で学ぶ男性のベトナム人留学生に取材すると、「何度も苦しい目に合ってきたベトナム人は、もうつらい経験はしたくないと強く思っています。フランス、日本、米国に対しては過去の歴史についての恨みはありません。むしろ自国の発展のために、新たな友好関係を築いていきたいというのが私たちの国民性です」と答えた。ただし、こうも口にした。
「でも中国だけは違います。常に警戒心を持っています」。
一般的にも、ベトナム国民は中国に対して好印象を抱いていないという。とは言え、学校で極端な「反中教育」を受けるわけではなく、領土問題を特に詳しく学ぶこともない。人々は中国への感情を心の中に閉じ込めてきたようだ。ところが2014年5月、中国が南シナ海のパラセル(西沙)諸島付近の海域に石油掘削装置を設置し試掘を始めてから「潮目」が変わった。ベトナムが自国領だと主張する場所に、中国が侵入してきたと受け取った。そのうえベトナム漁船を中国船が体当たりして沈めたことで、ベトナム人の怒りは頂点に達した。国内で激しい「反中デモ」が吹き荒れ、中国人労働者に死傷者が出た。
男性留学生は、暴力的なデモに関しては「残念」と話す。平和な方法で中国に抗議する手段を考えるべきというのだ。だが中国の強硬姿勢に対する反発心は消えない。「『中国はベトナムよりも大国だから、国際ルールを無視して自分たちの好き放題にやってよい』という考えは捨ててほしい」と語気を強める。
東京都内でも、在日ベトナム人による中国への抗議デモが5月11日に行われた。衝突は起きず、平和なデモ行進だった。男性留学生は都合で参加できなかったが、知人は行動に加わったという。「もちろん中国政府への抗議の意味はあります。同時に日本の人たちにも、ベトナムが抱える問題を知ってもらい情報を共有したかった」と語った。