米主要メディアで、コンピュータープログラムを使って記事を生成する「ロボット記者」の導入が本格化してきた。米AP通信では、企業決算の記事を自動作成することで、本数を飛躍的に増やせるという。
長い記事を自動的に短く要約するサービスも提供されており、多忙な人には「瞬時にニュースが分かる」と好評だ。ジャーナリズムの世界で自動化が進めば、国内外を問わず記者は「大量解雇」という時代が来るのだろうか。
地震発生、パソコン立ち上げたら既に記事が完成
米AP通信では現在、企業の決算発表の記事を四半期ごとにおよそ300本提供している。2014年6月30日の公式ブログでの発表では、自動化システムの導入により4400本に増やせるとしている。
ビッグデータを基に記事コンテンツを作成する技術を開発した米企業「オートメーテッド・インサイツ」と提携。企業の発表内容を150~300文字の原稿にまとめ、APが7月から徐々に配信する。発表事項や数値のまとめは自動生成に任せ、記者は発表内容のより深い分析に時間を割けるようにするのがねらいだ。
APでは数年前から、スポーツの記録の統計整理に自動化システムを取り入れていた。ただこれは、外部から提供を受けた様々な数値データをフォーマット化して配信するもの。記事そのものを「ロボット」が作成するのは、今回が初めてだ。
同様の試みは他のメディアでも見られる。米オンライン誌「スレート」2014年3月17日付記事では、米ロサンゼルスタイムズ紙のケースを紹介している。
LAタイムズ記者が早朝、地震で目が覚めた。飛び起きてパソコンのスイッチを入れると、画面上にはすでに「地震発生」の原稿が出来上がっていた。自動生成システムのおかげだ。記者は「パブリッシュ」のボタンをクリック。わずか3分で、地震の記事を配信できたという。起床後に記者自身が記事を執筆していれば、ここまで迅速に対応するのは不可能だっただろう。
LAタイムズでは、米地質調査所が発した地震警報のデータを収集し、その内容に沿って記事化する仕組みを開発。書き上げられた原稿は同紙のコンテンツ管理システムに保存され、記者やデスクが内容を確認して出稿する。実際の記事を見ると、米地質調査所が発表した地震の発生時刻や震源地、規模、震源の深さといった基本情報が網羅され、読み物として成立している。事実を伝える第1報としては十分と言えよう。
「記者をデータ処理の煩わしさから解放するため」と言うが…
LAタイムズでは同じ仕組みで、別の記事の自動化にも応用している。「スレート」の記事によると、ロサンゼルス周辺で発生した殺人事件のリポートも、地震情報のように配信しているそうだ。
一方、最近ポピュラーになってきているのが、既に書かれた長い記事を自動的に要約するサービスだ。代表的なものに、2011年、16歳の若者が開発したスマートフォン(スマホ)アプリ「Summly(サマリー)」がある。長編記事でも、スマホの画面で一気に読めるように300~500ワードに圧縮して配信する。12か国語に対応し、オノ・ヨーコさんが出資したことでも話題となった。その後、米ヤフーが買収したが、その金額は3000万ドルとされる。
国内では、パソコンやスマホで、自分の興味のある分野の記事を自動収集し、3行に要約して表示する「Vingow(ビンゴー)」や「SLICE NEWS(スライスニュース)」などがある。自動要約の精度も高まっており、読んでいて不自然に感じることは少なくなっている。通勤電車の中でスマホ片手に今日の出来事を知りたい人たちにとっては、利用価値の高いサービスだろう。
こうした仕組みがますます進化すれば、「将来、記事はすべて自動化されるのか。そうなれば記者は失業するのでは」と思う人は少なくないだろう。AP通信はこの問いに公式ブログで答えている。「ロボット記者」の導入は、あくまでも記者をデータ処理の煩わしさから解放し、取材や調査といった記者本来の業務に集中させるためというのだ。
だがこんな調査結果もあった。米キャリアキャスト社が発表した「2014年版・絶滅が危惧される職種」の中に、新聞記者が含まれていたのだ。米国では、2022年までに新聞記者の採用が13%減になると予想される。新聞購読者の減少や広告収入の落ち込みが悪影響を及ぼし、事業を停止した新聞社も出てきている。オンラインニュースの台頭も一因だ。ただでさえ厳しい環境で、追い打ちをかけるように今後「ロボット記者」が知恵をつけて分析記事や調査記事も書くようになったら……。
調査は米国のものだが、日本で同じ動きが起きないとは限らない。こんな未来がやってきたら、メディアの姿は今とは様変わりしているかもしれない。