米国は自国艦船に外国人乗せて退避は望んでいない  にもかかわらず、安倍首相はなぜこだわるのか

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   集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈が閣議決定されて1夜が明けた2014年7月2日朝、与党協議で主導的な役割を果たした自民党の高村正彦副総裁は、

「まだ国民から十分な理解を得られていない」

と厳しい現状認識を口にした。

   実際、7月1日に安倍晋三首相が開いた会見では、1か月半前の会見で「情に訴えている」などと批判を浴びたばかりのイラスト入りのパネルを再び登場させ、従来通りの持論を繰り返した。パネルで取り上げた米護衛艦の邦人輸送については「そもそも米国が想定していない事例」だという指摘が相次いでいたが、会見では特段の反論は展開されないまま。会見が国民にとって集団的自衛権の理解を深めるうえで意味があったか疑問視する声も出そうだ。

パネルのイラストが「情緒的」と批判される

安倍首相の7月1日の会見。米艦防護に関するパネルを使いながら説明した
安倍首相の7月1日の会見。米艦防護に関するパネルを使いながら説明した

   安倍首相は5月15日、演台の左右にそれぞれ「邦人輸送中の米輸送艦の防護」「駆けつけ警護」と題したパネルを置いて記者会見に臨んだ。会見は、安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」が行使容認を求める報告書を提出したことを受けて開かれた。安倍首相はパネルを指さしながら、日本人を輸送している米輸送艦が攻撃を受けた際、自衛隊が米艦を防御できるようになることの意義を強調した。

   この米艦防護のパネルには、母親が心配そうな表情で赤ちゃんを抱えるイラストが描かれ「情緒的だ」という批判が相次いだだけでなく、事例の想定自体に無理があるという指摘すら出ている。最もこの点が顕著になったのが、2014年6月11日に衆院外務委員会で行われたやり取りだ。

「自国民の避難についての計画を立て、また米国政府の手段に依存しないこと」

2回にわたって会見に登場した米艦防護に関するパネル。イラストが「情緒的だ」と批判さされた
2回にわたって会見に登場した米艦防護に関するパネル。イラストが「情緒的だ」と批判さされた

   民主党の辻元清美衆院議員が、戦争時に米輸送艦が日本人を輸送した先例について質問したところ、外務省の三好真理領事局長は

「過去の戦争時に米輸送艦によって邦人が輸送された事例があったとは承知いたしておりません」

と答弁した。さらに辻元氏は、米国政府による「外国にいる米国市民及び指定外国人の保護と退避に関する国務省と国防総省との間の合意メモ」の存在を指摘し、その内容について説明を求めた。これに対して、冨田浩司北米局長が、

「カナダ及び英国を含む全ての外国政府は、自国民の避難についての計画を立て、また米国政府の手段に依存しないことが求められる」

とメモの内容を読み上げた。つまり、(1)戦争時に日本人が米艦に輸送された事例はない(2)そもそも米国は自国艦船に外国人を乗せて退避させることを望んでいない(3)日本人が乗らない艦船の防護を米国が日本政府に要請することもない、といった点が明らかになったわけだ。

   辻元氏が

「現実は、安倍総理が言うように、米国から日本人を輸送してもらう米輸送艦の防護の要請が事前に来るどころか、米国側は『米輸送艦による日本人の救出は事前には約束できない、自分でやってください』と。そもそも想定していないと思いますよ」

と念を押すと、加藤勝信官房副長官は、

「『米国側は米国側の方針』というのはそのとおりだと思うが、いろいろな有事を考えたときに、起こり得る事態から、その事例も含めて(与党協議で示した想定事例の)15事例を出させていただいた」

と答弁。米艦防護の想定が現実離れしていることを暗に認めているともとれる。

8つもある想定事例から批判浴びた事例をピックアップ

   このような状況にもかかわらず、7月1日の会見では再び母親と赤ちゃんのイラスト入りの米艦防護に関するパネルが登場した。政府は、今回の憲法解釈変更で対応可能になる事例を8つも挙げている。わざわざ、その中から批判を浴びている事例をピックアップしたことになる。

   5月15日の会見時点で、パネルは安倍首相の強い意向で製作されたことが指摘されており、7月1日の会見でも同様の意向が働いた可能性が高い。安倍首相は、

「米国が(日本人を)救助、輸送しているとき、日本近海において、攻撃を受けるかもしれない。我が国自身への攻撃ではない。しかしそれでも、日本人の命を守るため自衛隊が米国の船を守る。それをできるようにするのが今回の閣議決定」

などと従来の説明を繰り返したが、一連の指摘に反論することはなかった。

   当然、野党はこの点を攻撃材料にしたい考えで、共産党の志位和夫委員長は首相会見の2時間後にツイッターに

「首相が会見で、集団的自衛権行使容認のため、またも『邦人輸送の米艦護衛』の例を持ち出したのは、率直にいって呆れた。過去の日米交渉で米側はこの場合の日本人救出を断っており、『自国の責任』となっていたではないか。こんな例しか持ち出せないとは、自分の空理空論ぶりを、自分で証明するものだ」

と書き込んだ。

   菅義偉官房長官は、7月1日午前の会見で、

「長官がおっしゃる国際化の進展や中国・北朝鮮を含めて周辺の環境が変わるというのは重々わかるが、長官ご自身は、集団的自衛権の必要性をいつごろからお考えなのか」

と聞かれ、

「政府を代表して私は会見をしているので、私個人のことは控えたいと思う。ただ、国民の皆さんの生命、財産を守ることを考えたときに、私は今回の政府の提案は、ある意味では当然のことだと思う」

と歯切れの悪い答え。安倍首相の独断専行ぶりが際立つ形になっている。

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