希望しても認可保育所に入れない「待機児童」の4月1日時点の数字を、自治体が相次いで発表し、「ゼロ」を達成したところ、逆に増えたところなど、明暗が分かれている。
「ゼロ」になっても翌年はまた増える例もあり、対策を進めれば希望者が増え、結果として新たな待機児童が生まれるというイタチゴッコが続いている。
横浜市、待機児童「ゼロ」達成も1年だけ
2013年4月1日時点で待機児童「ゼロ」を達成した横浜市だが、14年4月1日現在は20人となった。保育所に加え、市独自の助成で少人数保育を支援する「横浜保育室」、NPOなども活用した家庭的保育、幼稚園預かり保育(11時間保育)などを推進するとともに、各区役所に配置した「保育コンシェルジュ」がきめ細かくパーソナルに相談に乗り、保育所探しをサポートする「横浜方式」が全国的に注目されたが、1年前の「ゼロ」発表以降、市外からの転入や、新たに子を預けて働きに出るケースが増加。14年の入所申込者数は前年より一気に4114人も増え、過去最高の5万2932人に達した。市は2013年度中に認可保育所を31カ所新設し定員を2390人分増やしたが、追いつかなかった。
元々多いうえに、さらに悪化したのが、前年全国ワーストの世田谷区。4月1日時点で、1年前の884人から225人増え1109人。この1年で認可・認証保育所などの定員を640人分増やしたが、認可保育園の申込者数は2012年4429人、2013年4986人、2014年5363人と、人口増を上回るペースで膨らみ続け、定員増が追い付かない。仙台市も、認可保育所を6カ所、定員450人分増やしたが、待機児童は前年より37人多い570人と、2年連続の増加になった。
新たに待機児童「ゼロ」を宣言した自治体も続々
横浜市や世田谷区の例は、懸命に手を打つほど、潜在需要を喚起して対策が追い付かなくなるという、待機児童問題の難しさを教える。
一方で、新たに待機児童「ゼロ」を宣言した自治体も続々と現れている。昨年4月1日時点の待機児童数が695人で、全国ワースト2位だった福岡市は、認可保育所の定員を1820人分増やしたほか、幼稚園で長時間預かる事業や、19人以下の小規模保育事業の整備など、受け入れ枠を計2354人増やしたのが奏功した。2011年1275人、12年1032人と待機児童数が全国最多だった名古屋市は、2013年に280人へと一気に減らし、今年は解消に漕ぎ着けた。千葉市も2011年に350人と最悪を記録して、本格的な対策に取り組み、2012年123人、2013年32人、そして今年はついに「ゼロ」。このほか、京都市(前年94人)、松山市(同40人)なども「ゼロ」を達成、昨年は神奈川県内最多の438人だった川崎市も、62人と376人減らした。
親の通勤経路や交通手段をパソコンに入力
これらに共通するのは、「横浜方式」と同様、施設整備ときめ細かい対応の組み合わせだ。名古屋市は民間保育所への補助を手厚くするなどで3歳児未満の入所枠を2013年度までに4000人分以上増やし、また、市内全区に「保育案内人」を配置して希望先に入所できない人の居住地や通勤先を考慮して代わりの保育所を紹介。千葉市は、入所選考に漏れた568人について、親の通勤経路や交通手段をパソコンに入力し、自宅から遠くても通勤途上にある施設を探し、キャンセル情報を照合、認可外施設や幼稚園を紹介するなど、60人の職員が3月まであっせんを続けた――といった具合だ。
ただ、定員確保が優先されるのは仕方ないにしても、保育の質低下を懸念する声は根強い。15年春、市区町村の認可事業になる「小規模保育事業」(0~2歳児)では、保育士の比率が、認可保育園の半分でもいいなど、保護者の心配は尽きない。また、保育所が増えるのに人材が追い付かず、自治体間の保育士の争奪戦も伝えられる。
国の制度整備はもちろん重要だが、主体になる自治体の努力が待機児童対策のカギを握ることは、横浜をはじめ各自治体の取り組みが証明している。ただし、解決への道のりは、なお険しいということだ。