「ワクチンの中断が今のまま続けば、日本は世界で最も子宮頸がん多発の国になる」との産婦人科医の悲鳴が聞こえる。
2014年5月21日、東京で国際シンポジウム「命と家族を救う子宮頸がん予防」が開かれた。日本産婦人科医会、子宮頸がん征圧をめざす専門家会議などが主催した。
接種率が激減
子宮頸がんはパピローマウイルスの感染で起きる女性のがん。ウイルス感染予防のためのワクチンが世界中で使われている。日本では主に女子中学生を対象に2009年から接種が始まり、徐々に広がり、2013年4月から定期接種化された。ところがその前後から激痛などの副作用例が報道され被害者の会も発足。厚生労働省の専門家会議は2013年6月、「積極的な接種勧奨の差し控え」を決めた。
シンポジウムでは自治医大さいたま医療センターの今野良・教授(産婦人科)らが日本の状況を報告した。それによると、日本では毎年約1万人が子宮頸がんを発症、3500人が亡くなっている。また、9000人が早期がんで円錐切除術を受け、何割かは出産に障害が出る。ワクチン接種率が85%なら検診ゼロでも6割、検診率が85%ならワクチン10%でも8割以上の子宮頸がんを予防できる。
ところが、副作用報道から勧奨控えの結果、ワクチン接種率は72%から8%に激減、検診率も25%に止まっている。ワクチンは53カ国で公費接種されているが、両方とも低い日本はこのままでは10数年後には突出した子宮頸がん大国になる可能性がある、という。世界保健機関 (WHO)は2014年3月、重大な病気につながるとの根拠はない、とワクチンの安全性、有効性を声明した。
ワクチン専門家としてWHO顧問であり、最近まで英国保健省予防接種部長だったD・ソールズベリー医師によると、英国は国を挙げて子宮頸がん予防を実行、学校でワクチンを接種している。2009年、接種直後の女生徒が亡くなり、大きく報道された。保健省はそれと同じ日に製造されたワクチンを調査、他では特別の副作用がないことを確認して発表した。こうした対応で4日目には報道は鎮静化した。
シンポジウムでは副作用の訴えに対し、日本の厚生労働省や医療関係者の対応のまずさが浮き彫りになった。
(医療ジャーナリスト・田辺功)