東京電力福島第1原発を訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出すなどの描写で物議を醸している漫画「美味しんぼ」の最新話が、2014年5月12日発売の週刊ビッグコミックスピリッツ24号(小学館)に掲載された。
原作者の雁屋哲氏がブログで予告していたとおり、前号(4月28日発売号)よりも踏み込んだ内容になっている。
「福島では同じ症状の人が大勢いますよ」
最新話は、前双葉町長である井戸川克隆氏が「私が思うに、福島に鼻血が出たり、ひどい疲労感で苦しむ人が大勢いるのは、被ばくしたからですよ」と語るシーンから始まる。前号では、井戸川氏が自身も鼻血が出ることや疲労感が強くなったことを明かし、「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と述べる様子が描かれていたが、今回はその理由にまで言及した形だ。また、井戸川氏は国や東電への不信感を露わにし、「私は前町長として双葉町の町民に福島県内には住むなと言っているんです」と訴えている。
作中には、福島大学行政政策学科類准教授の荒木田岳氏も本人役で登場し、除染作業を何度も行った経験を語る。その上で「除染をしても汚染は取れない」こと、「福島はもう住めない、安全には暮らせない」ことなどが分かったといい、主人公らに「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんて、できないと私は思います」などと語った。
また、岐阜環境医学研究所所長の松井英介氏が、大阪府の瓦礫処理を行う焼却場付近で健康被害が出ていると話す描写もある。焼却場近くの住民約1000人を対象に「お母さん」たちが調査したところ、約800人が鼻血や眼、のど、皮膚などに不快な症状を訴えたというのだ。
「本県への風評被害を助長するもの」と批判
こうした描写に、関連自治体が反論に出た。すでに抗議していた福島県双葉町に続き、12日には、福島県も公式サイト上で県としての対応を説明するとともに、小学館に送った文書(7日付)を公開した。サイトでは「作中に登場する特定の個人の見解があたかも福島の現状そのものであるような印象を読者に与えかねない表現があり大変危惧しております」とし、「本県への風評被害を助長するもの」と批判している。
抗議に出たのは福島県だけではない。12日には大阪府と大阪市も瓦礫処理に関する描写を受けて抗議したことを公式サイトで発表した。大阪市が焼却工場のある此花区役所などに確認をとったところ、「処理中においても、その後においても、そのような状況は認められませんでした」として、作中の松井氏の発言内容を否定している。なお、描写部分についての事前取材は大阪府も大阪市も一切受けていないそうだ。
編集部「議論をいま一度深める一助になることを願って」
インターネット上でも、さっそくさまざまな意見が寄せられ、再び騒動となっている。そうした中、スピリッツ編集部は12日、公式サイト上にコメントを掲載した。4月28日発売号の際に載せたコメントと同様に、鼻血や疲労感と放射線の影響については、「因果関係について断定するものではない」としている。また、実在の人物の意見を受けた表現については、
「事故直後に盛んになされた低線量放射線の影響についての検証や、現地の様々な声を伝える機会が大きく減っている中、行政や報道のありかたについて、議論をいま一度深める一助になることを願って作者が採用したものであり、編集部もこれを重視して掲載させていただきました」
と説明している。
なお、美味しんぼの「福島の真実編」は次号で完結する。雁屋氏は4日のブログで、最終話は特に「はっきりしたことを言っている」ために「鼻血ごときで騒いでいる人たちは、発狂するかも知れない」と予告している。