大槌町吉里吉里地区に「風の電話」と呼ばれる電話ボックスがあります。震災の犠牲者と遺族が対話する空間です。「心の復興のきっかけになってほしい」。ガーデンデザイナーの佐々木格(いたる)さん(69)が自宅の庭の一角に造りました。この実話をモデルに、絵本「かぜのでんわ」(いもとようこ著、金の星社)が出版され、2014年4月20日から現地で原画展が始まりました。
「風の電話」ボックスには、線のつながっていないダイヤル式の黒電話があります。だれでも自由に出入りして話すことができ、電話の横には佐々木さんのこんなメッセ―ジが添えられています。
「風の電話は心で話します 静かに目を閉じ 耳を澄ましてください 風の音が又は浪の音が 或いは小鳥のさえずりが聞こえたなら あなたの想いを伝えて下さい 想いはきっとその人に届くでしょう」
電話ボックスは以前に譲り受け、保管していました。がんで亡くなった親しい人の一周忌に、「思いを伝える電話があれば」と、この電話ボックスを利用することを思いつきました。2010(平成22)年11月のことです。そして工事に入った時に震災が起きました。大槌町内の犠牲者は1200人、行方不明者は400人を超えました。「突然の死で、区切りをつけられない人がたくさんいる。苦しみ、悲しみを抱えた遺族と、亡くなった人をつなぎたい」。電話ボックスは震災から1か月後の2011年4月に完成しました。
多くの人が訪れて、この電話で亡くなった人と心を通わせています。電話の横にあるノートには、次のような文章がつづられています。「平成23年5月13日。あの日から2か月たったけど、母さんどこにいるの。親孝行できずにごめんね。会いたいよ。絶対、見つけてお家に連れて来るからね」「親父さん。貴方の白髪がとにかく懐かしいです。私はこれからの生活に全力を出して貴方の娘を守っていきます」
電話ボックスの中で大声で泣く人。一人静かにひっそりと帰る人。2回、3回とやってきて、やっと受話器を手に取る人……。佐々木さんは訪れた人たちに無理に話しかけずに、静かに見守ってきました。
こうしたエピソードを、童話作家のいもとようこさんはラジオで聴き、絵本にしました。山の上に線がつながっていない電話があり、兄を失ったタヌキ、子や妻を亡くしたウサギやキツネが訪れて電話で話しかける物語です。
原画は12点。柔らかなタッチで動物たちや自然が描かれています。絵本を出版するにあたって連絡があった時に佐々木さんは、原画展を現地で開くことを条件に快諾しました。
原画展はベルガーディア鯨山の「森の図書館」で。5月18日まで(月曜日は休館)。午前10時から午後4時、入場無料。受け付け、問い合わせは0193-44-2544へ。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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