政府の税制調査会(安倍晋三首相の諮問機関)の分科会が2014年4月8日、国民全員に番号を割り振って社会保障や税の情報を管理する「マイナンバー制度」について、「預金口座も対象とすべきだ」との方針をまとめた。
こうしたあるデータに別の情報を関連付けることを「紐付け」というが、我が国の金融機関の口座数は10億にのぼるといわれ、その紐付けには膨大な事務負担が予想されるとあって、銀行業界からは嘆息も聞こえてくる。
脱税などの不正摘発が容易になる
「ペイオフ(金融機関の破綻時に預金の払い戻しを元本1000万円とその利息に限定する措置)解禁に合わせて、同一名義の複数口座をまとめる『名寄せ』ですら大変な作業だった。あの悪夢がよみがえるのか…」。あるメガバンク幹部は、預金口座へのマイナンバー付与方針を聞いて絶句した。
マイナンバー法は昨年5月に成立し、2016年1月に運用が始まる予定。政府が国民一人一人に番号を割り振って、個人の給与所得や年金、医療の受給状況などを一元管理する。ただし、現行法はマイナンバーと預金口座の紐付けを認めておらず、政府が預金口座の情報を把握することはできない。
しかし、源泉徴収により税金や社会保険料を給与から自動的に引き落とされるサラリーマンの間では、自己申告で納める自営業者や農家などに対し、「所得が正確に捕捉されていない」との不満が根強い。また、資産家でも直近の所得が少なければ、手厚い社会保障を受けられるという問題もある。法改正によって税当局などが口座情報から個人の資産をより正確に把握できるようになれば、脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)、生活保護の不正受給などを防ぎやすくなり、不公平感の解消にもつながるというわけだ。分科会の提言を受け、政府は6月にロードマップ(行程表)をまとめる方針だ。
口座数が膨大なので金融機関には負担
しかし、実現には多くの課題がある。日本の個人預金の口座数は、ゆうちょ銀行などを含めると10億口座以上。政府はまず、新たに開かれる口座を対象にマイナンバーを付与し、その後、既存の口座にも拡大する方向で検討している。個人資産をより正確に把握するという目的を達成するためには、すべての口座とマイナンバーが結びつかないと意味がないが、口座数が膨大なだけに各金融機関の事務負担は相当大きくなりそうだ。
全国銀行協会は、預金口座へのマイナンバー付与について、社会保障充実や負担の公平性確保という趣旨には理解を示している。ただ、口座数が膨大なうえ、住所が変更されないままで顧客との連絡が取れないケースや、長年使われていない休眠口座があるなど、実務上の問題点を指摘。預金者にとって番号付与のメリットがすぐに感じられるわけではないため、手続きへの協力を得にくい可能性にも言及している。
費用面の負担も膨らむ恐れがある。全銀協は2月末に開かれた政府税調の会合で、新規口座に限ってマイナンバーを付与する場合でも300億円の費用がかかるとの試算を示した。こうしたことから、導入時には十分な準備期間をとることや、民間銀行のサービスでもマイナンバーを利用できるようにすることなどを政府に要望している。
そもそも、政府が個人の口座情報を把握することに対し、抵抗を感じる預金者も多いだろう。政府と銀行業界が今後、制度の詳細を検討していくことになるが、制度のメリットについて丁寧に説明することが求められそうだ。