日本から欧米まで現在12時間以上かかる飛行時間が6時間に短縮され、タイなどアジア圏は2~3時間で日帰り出張もできる――。そんな夢を可能にする「超音速旅客機」の開発が日本の官民で進んでいる。2020年代に座席12席程度の小型超音速機でスタートし、2035年に100~200席の次世代大型超音速機を開発するのが狙いという。
超音速機をめぐっては米欧露も開発を進めており、日本が主導権を握れるか注目される。実現すれば私たちのビジネスや観光のタイムスケジュールが変わるだけでなく、自動車や電機に次ぎ、日本の航空産業が米ボーイングや欧州のエアバスと並ぶハイテク基幹産業に育つ可能性も夢ではない。
2010年代に入り超音速旅客機の開発機運が高まる
超音速機は1976年に就航した英仏共同開発のコンコルドが有名だ。同機の速度は音速の2倍に当たるマッハ2。戦闘機並みのスピードを誇ったが、燃費の悪さと爆音のほか、2000年には炎上墜落事故を起こすなど、課題を克服できぬまま2003年に引退した。
現在のボーイングやエアバスのジェット旅客機は音速よりも遅いマッハ0.8程度で飛行している。「これが音速を超える倍の速度で飛行できれば、飛行時間は半分になり、ビジネスと観光の両面で経済活動が活発になる。日本から欧州まで6時間以内であれば、エコノミークラス症候群の心配も少なくなり、今より気軽で楽な旅行ができるようになる」と、独立行政法人「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」はメリットを強調する。
コンコルドが引退後、これまで超音速機は復活していないが、「2010年代に入り、ビジネスジェット機クラスの超音速旅客機の開発機運が高まり、国際民間航空機関(ICAO)で国際的なソニックブーム(超音速機が起こす爆音)の基準策定の議論が始まっている」(JAXA)という。
実用化のネックは「ソニックブーム」と呼ばれる爆音
「ポスト・コンコルド」の国際共同研究は米仏英独露と日本の6カ国で進んでおり、日本は「次世代超音速旅客機が国際共同開発される際、確固たる地位を占めるため、得意技術の実証を通じて、日本の航空機技術の高さを証明したい」(JAXA)としている。
日本国内では2010年、三菱重工業、川崎重工業、富士重工業、IHIの航空機メーカーのほか、トヨタ自動車、JAXA、経済産業省、東京大学、名古屋大学、東北大学などがメンバーとなる「高速機開発促進懇話会」が発足。官民挙げて実用化を目指している。
実用化のネックとなるのは、「ソニックブーム」と呼ばれる爆音だ。航空機が超音速で飛行すると、機体から発生する衝撃波が地上にもたらす瞬間的な爆音で、「コンコルドでは落雷の音に相当した」というすさまじさだ。コンコルドはこの問題を克服できなかったため、地上を超音速で飛行できず、海上のみの飛行に制限された。陸上を飛行できず、航路が限られたことも、コンコルドが商業的に成功しなかった一因とされる。
日本は「静かな超音速旅客機」の開発目指す
このため、日本はJAXAを中心に「静かな超音速旅客機」の研究開発に取り組んでいる。ソニックブームを低減させる機体の実験機(エンジンなしの無人超音速滑空機)を富士重工業と開発。スウェーデンの北極圏内にある実験場で2014年、試験を行う予定という。
もちろん超音速機開発のハードルは高い。米国ではNASAがボーイングなどと開発を進めており、「研究予算、人員とも日本は米国の5分の1以下」(政府関係者)と劣勢は否めない。それだけに日本は「中長期的な国家戦略を定め、産学官の役割を明確にし、リソースの最適配分で研究開発を推進することが必要だ」という。
航空関係者によると、「超音速機が再び登場するとすれば、ソニックブームや燃費などの課題から小型機でスタートし、本格的な大型機が登場するのは今後の技術開発の進展しだい」という。自民党は日本の航空産業を「我が国の次の基幹産業として発展させるため、安倍政権の『成長戦略』に明確に位置づけ、国家戦略として取り組むべきだ」と主張。「研究段階にある超音速機については、実用化に向けてしっかりと取り組む」としており、国家プロジェクトとして開発を支援する方針だ。