2ちゃんねるの書き込みデータを分析するサービスをしている東証マザーズ上場のIT企業「ホットリンク」の社長が、データ取得トラブルの発表前に保有する株を大量に売却していた。一部ではインサイダー取引との疑惑を生みかねない、との指摘もあるが、企業側は「そういう認識は一切ない」と否定している。
ホットリンク社長が株を売却していたのは、2ちゃんでサーバーダウンによる大規模な障害が発生した2014年2月19日だった。
発表後は、株価が下落を続けている
このときは、2ちゃん運営側の内部でトラブルがあったとされ、当時も運営に関わっていたという開設者の西村博之さんが、ツイッターで2ちゃん終了を告げたと騒ぎになった。レンタルサーバー会社のジム・ワトキンス会長側が2ちゃんの管理者になったとされ、西村さん側は、乗っ取られたと主張したのだ。
ホットリンクは、西村さんが役員をしている「未来検索ブラジル」などと独占契約して2ちゃんデータを取得している。この時点では、取得トラブルにはなっていなかったが、ホットリンク社長はこの日、8万株(株式分割後の40万株相当)をも売却していた。当時の株価で計算すると、11億円余だ。2ちゃんのサーバーダウンはこの日午前4時ごろから始まっており、8万株は時間外取引で売却された。
このことについては、3月3日になって、ホットリンクが発表し、投資家層の拡大などが目的だとした。株の長期保有を意図する海外の機関投資家に売却したとしたが、2ちゃんのことは何も言及されていない。その後、ホットリンクは、10日になって、「未来検索ブラジル」などから2ちゃんのデータを取得できなくなるトラブルが6日に発生したと発表した。そこでは、業績への影響は軽微だとしている。発表が4日間も遅れたのは、事実確認などに時間がかかったからだという。
発表後は、株価が下落を続けている。8万株は、4月4日の株価なら7億円余になる。結果として、ホットリンク社長は、4億円ほどの損失を免れた形になった。
「トラブルがあったときに、大量に売買するのは望ましくない」
こうした結果に対し、2ちゃんねるでは、ホットリンク社長が、内部情報を利用して利益を得るインサイダー取引をしていたのではないかとの指摘が相次いだ。データ取得トラブルの発表前などに社長が何らかの内部情報を得ていたのではないかというもので、スレッドが次々に立てられて祭り状態になっている。
インサイダーに詳しい証券業界関係者は、望ましくない取引だと指摘する。
「常識的に考えて、株価が下がっていく状況だと言えれば、インサイダーだと考えられます。現職の社長などは内部情報を持っており、トラブルがあったときに、大量に売買するのは望ましくないと思います。当然、投資家の不信を招くことになりますし、損害賠償を求められるリスクもあります」
ただ、トラブルがあっても、ほかの会社などから支援を受ける可能性もあり、必ず株価が下がるとは言えないという。今回も、インサイダーとは断定できないとしており、今のところ、それを示す証拠も出ていない。
東証マザーズを運営する東京証券取引所では、広報担当者が「個別の企業について、どういう調査をしているかについては、お答えできません」と取材に答えた。
一方、ホットリンクの広報IR室では、社長のインサイダー取引を疑う声が出ていることに対し、「弊社としては、そのような認識は一切ありません」と反論した。その理由としては、データ取得トラブルは、2014年3月6日になって初めて把握できたからだと説明した。
ホットリンクでは、株主総会前の3月20日に2ちゃんデータ分析のサービス提供を再開したと発表したが、なぜ2ちゃんが乗っ取られた状態のままでできるのか。この点については、「発表以外のことについては、お答えしていません」とだけ言っている。