新型万能細胞「STAP細胞」の論文に「改ざん」や「ねつ造」があったと理研の調査委員会が認定した問題で、理研と著者の小保方晴子・研究ユニットリーダーの言い分が真っ向から対立している。
小保方氏は一貫して「単純ミス」説を主張しているが、調査委員会が不正を認定した根拠についてはほとんど反論していない。必ずしも両者の主張はかみ合っておらず、このまま小保方氏が不服申立を行ったとしても、「研究不正」があったという判断が覆る可能性は薄いとみられる。
切り貼り画像「手法が科学的な考察と手順を踏まないものであることは明白」
調査委員会が研究不正だと指摘したのは大きく2点。一つ目が、STAP細胞がリンパ球からできたことを示す1枚の写真が、実は2枚の写真から合成されていた点。これは「手法が科学的な考察と手順を踏まないものであることは明白」だとして「改ざん」だとされた。二つ目が、STAP細胞が様々な細胞に変化できることを示した画像が、STAP細胞とは関係のない小保方氏の博士論文から流用されていた点。特に画像の流用については、石井俊輔調査委員長が、
「明らかな実験条件の違いを認識せずに『論文1の図を作製した』という説明を納得することは困難。このような行為は、データの信頼性を根本から壊すものであり、その危険性を認識しながらなされたと言わざるをえない」
と厳しく非難。「ねつ造」だと認定された。
「改ざん」「ねつ造」認定した根拠には反論せず
この調査報告に対して、小保方氏は、
「理化学研究所の規程で『研究不正』の対象外となる『悪意のない間違い』であるにもかかわらず、改ざん、ねつ造と決めつけられたことは、とても承服できません。近日中に,理化学研究所に不服申立をします」
と猛反発している。具体的にみていくと、画像の改ざんについては、
「Figure1i (編注:改ざんが認定された画像)から得られる結果は、元データをそのまま掲載した場合に得られる結果と何も変わりません。そもそも,改ざんをするメリットは何もなく、改ざんの意図を持って,Figure1i を作成する必要は全くありませんでした。見やすい写真を示したいという考えから Figure1i を掲載したにすぎません」
と反論した。調査委員会が「改ざん」の根拠とした「その(画像加工の)手法が科学的な考察と手順を踏まないもの」といった点については反論しなかった。
画像のねつ造については、
「単純なミスであり、不正の目的も悪意もありませんでした」
と、これまでどおりの「単純ミス」説を引き続き主張した。調査委員会が指摘した、まったく条件が違う画像を取り違えることの不自然さについては反論しなかった。
「実は正しい画像が存在する」説や「自首」説も展開
これに加えて、小保方氏は「単純ミス」説を補強する主張を大きく2つ展開しているが、いずれも「不正」認定に反論する根拠としては心もとないものだ。1点目が、
「真正な画像データが存在していることは中間報告書でも認められています。したがって,画像データをねつ造する必要はありません」
という「実は正しい画像が存在する」説。この点については、石井調査委員長が「これは非常に話が簡単でして…」と、わざわざ前置きしたうえで一蹴した。
「差し替え用の真正と思われる画像があるということと、論文投稿時に、非常に不確実なデータを、意図的にあるいは非意図的に使ったということは全く別問題。不正の認定は後者の『論文投稿時にどういう行為が行われたか』なので、それは関係ない」
画像差し替え申し出た時も「博士論文画像」だったとは伝えなかった
2点目が、
「そもそも、この画像取り違えについては、外部から一切指摘のない時点で、私が自ら点検する中でミスを発見し、ネイチャーと調査委員会に報告したものです」
という「自首」説。この主張も、大きく2つの点で疑問が出ている。一つ目が、画像の取り違えを申告した際も、事実と異なる説明をしていた可能性だ。調査委員会によると、小保方氏は2014年2月20日に「元々論文に記載された画像が実は間違っていました」などと画像の差し替えを申し入れた。小保方氏はその理由を、
「ネイチャーの記述では、脾臓の血液系細胞から作製したSTAP細胞を使用したという記述がなされている。一方、これらの画像は実は骨髄の血液系細胞から作製したSTAP細胞を使用しているのが分かった」
と説明していた。つまり、差し替え前の画像もSTAP細胞に関連するものだという説明だが、実際に掲載されていたのはSTAP細胞とは無関係な博士論文に関連するものだった。この点は、小保方氏は2月20日の時点では調査委員会には説明しておらず、「隠していた」との批判も出そうだ。
もうひとつは、この博士論文からの画像流用疑惑は、ネット上では遅くとも2月13日には指摘されていたという点だ。ネット上の指摘が出てから小保方氏が「ミス」を申し出るまでに1週間のタイムラグがあったことになる。小保方氏の「外部から一切指摘のない時点で、私が自ら点検する中でミスを発見し」という主張は、さらに検証が求められることになりそうだ。
不服申し立て期間は、小保方氏が調査報告書を受け取った3月31日から10日間。その後の再調査期間が最長で50日なので、遅くとも2か月後には小保方氏の不正行為に関する最終的な結論が出ることになる。改めて不正が認定された場合、理研は論文の取り下げを勧告し、懲戒委員会で処分を検討することになる。
調査委員会のミッションはSTAP細胞の有無を検証することではない
小保方氏は、
「このままでは、あたかもSTAP細胞の発見自体がねつ造であると誤解されかねず、到底容認できません」
と主張するが、調査委員会のミッションは、事前に絞り込まれた6つの論点について不正があったかを検証することが目的で、論文全体の正しさやSTAP細胞の有無を検証することが目的ではない。
調査委員会の報告を受けた理研では、報告書で認定された内容は正しいと受け止めており、STAP細胞が存在するかどうかについては判断を保留している。今後1年間かけて再現実験を行い、14年夏にも中間報告を行う。
川合真紀理事(研究担当)によると、
「論文そのものの価値については、それ(STAP細胞の有無)とはインディペンデントな話」
「手続き上不備が多々ある論文で、信頼性はそういう意味では下がっている」
といったところだ。ただ、論文には今回の調査対象となった6点以外にも多々不自然な点が指摘されている。この点について川合氏は、
「どのくらい確実な情報であるかはともかく、匿名でネット上で問題視されている点がいくつかある。いくつかについては、私どもも指摘がどのくらい確度があるのか、我々の手で解明する所存だ」
と述べており、さらに多くの不正が認定される可能性もある。