安倍晋三首相がオランダ・ハーグで開かれていた核セキュリティサミットの記者会見で、プルトニウムを大量に国内に保有している理由を外国記者にただされ、釈明に追われる一幕があった。
プルトニウムは核兵器に転用が可能だ。原発の停止などで使うあてがなくなったプルトニウムを大量に国内に保有すれば、日本が核兵器保有を目指していると疑われかねない。この疑念が顕在化した一幕だ。
「日本や他国に危険をもたらしうるものを、なぜ持ち続けるのか」
2014年3月25日に行われた記者会見で出た質問は、以下のようなものだ。質問の主は米AP通信記者。
「日本は今でも9トン以上のプルトニウムを国内に保有している。この理由は何か。近い将来に利用する目的があると指摘する専門家もいるが、あなた(安倍首相)は『将来利用しないものは持たない』とも発言している。日本や他国に危険をもたらしうるものを、なぜ持ち続けるのか」
これに対して、安倍首相は
「全量についてIAEA(国際原子力機関)の保障措置のもと、すべて平和的活動にあるとの結論を得ている。更に、日本独自の自発的な措置として、プルトニウムの管理状況について、国際的な指針よりも詳細な情報を公開している。わが国は、核物質の最小化にもコミットしている」
と答弁し、核物質を適正管理しながら保有量削減を目指していることを強調した。
原子力機構の核物質返還で「数百キログラムの核物質を削減」
会見前日の3月24日には、日本原子力研究開発機構(JAEA))が高速炉臨界実験装置(FCA)用に保有していた全ての高濃縮ウランと分離プルトニウムを、米国に返還することで日米が合意したことが発表されている。ホワイトハウスの発表によると「この取り組みで、数百キログラムの核物質が削減できる」という。
日本としては「持ちすぎ」批判をかわす狙いもあるとみられ、確かにこの取り組みを評価する向きもあるようだ、例えばロイター通信によると、米モントレー国際問題研究所のマイルズ・ポンパー氏は、今回の返還合意を「重要なこと」だと表現している。ただ、それでも疑念は消えないようで、ポンパー氏は
「日本はそれでも核兵器に利用可能な分離プルトニウムを9トンも保有しており、さらにその量を増やそうとしている」
とも述べている。
中国外務省「核物質の需要供給バランスが崩れると核拡散のリスク」
公然と日本の核物質大量保有に疑念を示したのが中国だ。外務省の秦剛報道官は2月28日の会見で、
「こういった(プルトニウムやウランといった)慎重に扱うべき核物質の需要供給バランスが崩れると核セキュリティーが潜在的な危険にさらされ、核拡散のリスクをもたらすことになる」
と、やはり「持ちすぎ」を批判。その上で、
「日本政府には責任ある態度と、(1)日本には高濃縮ウランや兵器級ウランが存在するのか(2)どのくらいの量があるのか(3)ウランの利用目的は何か(4)需要と供給が均衡しているか、といった疑問に対する明確な回答を求めたい」
と要求している。この批判に対しては、菅義偉官房長官が3月24日の会見で、安倍首相と同様の答弁をしたうえで「中国の批判はまったくあたらない」と反論している。
日本は日米原子力協定で、核燃料の再処理について米国から事実上「特別待遇」を受けている。日本以外は核燃料の再処理を行うにあたって、処理を行うたびに米国から同意を得る必要があるが、日本だけその必要がない。核保有国以外で米国が核燃料サイクルを持つことを認めているのは日本だけだ。だが、使うあてもない核物質が国内に残留するということは、さまざまなリスクが膨らむということであり、核拡散を防ぎたい米国の立場とすれば基本的に看過できない、というわけだ。AP通信記者の質問は、そうした米国のスタンスを踏まえたものといえそうだ。