新型万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の論文を巡り、続々と疑惑が指摘された問題は、共著者のひとりが「確信が持てない」と、取り下げを訴える事態にまで発展した。
STAP細胞の作製を発表した理化学研究所の小保方晴子・研究ユニットリーダーは騒ぎが起きて以来、表舞台から姿を消したまま。理研は「調査中」を繰り返すものの明確な説明が不足しており、疑念が晴れないまま1か月が過ぎてしまった。
渦中の小保方さんは「淡々と研究中」?
発端は、英科学誌「ネイチャー」に掲載された論文に使用された画像に不自然な点があるとの指摘だった。別の実験画像と類似していると言われ、当初は「単純ミスによる掲載と思われるが調査をする」という説明があったが、あやふやなまま時が過ぎる。その後、他の論文を無断で引用したのではないかという疑問が噴出、さらに論文上の別の画像が、今度は小保方さんの博士論文に使用された画像と酷似していることがわかった。「簡単につくれる」と説明していたSTAP細胞が、実際は小保方さん以外誰も再現実験に成功していないことも分かってきた。
共著者のひとりである山梨大学の若山照彦教授は2014年3月10日、報道陣に対して、小保方さんを含む共著者に論文の撤回を呼びかけたことを明かした。「確信がもてなくなった」のが理由だ。画像の使い回しの疑いや、「報告を受けていたことと違う」点が見つかったという。共著者でありながら、自身の手のみでSTAP細胞の再現は1度も成功していない。「いったん取り下げて修正し、正しい論文として発表し直した方がよい」との主張だ。
理研の広報担当者は3月11日放送の「朝ズバッ!」(TBS系)の取材に対して、小保方さんの動向について「淡々と研究中」と述べるにとどめた。また若山教授から論文撤回の提案があったことは承知しており、対応については「現在協議中」とだけ告げた。
番組に出演した毎日新聞科学環境部の元村有希子記者は、「どうしてこういう騒ぎになっているか、誰も説明していない」と理研の対応を疑問視。画像や論文の引用に対する指摘は「ささいなミスと受け止めていたかもしれない」とみる。次々に問題が浮上してきたため対応に追われていたのは事実だろうが、「1か月間何も言わない、取材にも応じない、では不信感が膨らむ」と批判した。
「論文の信頼性、研究倫理の観点」から論文の取り下げを視野
確かに理研は、画像と引用の疑惑には「調査中」のまま明確な回答をしてこなかった。一方、STAP細胞を誰もつくれないとの声には3月5日、その詳しい作製手順をウェブサイト上で公開した。
騒動が長引いているためか、政府も動きを見せた。菅義偉官房長官は3月11日の会見で、文部科学省を通じて理研に調査の実施と速やかな事実解明を求めたと話した。下村博文文科相は、いくつもの疑問が浮かび上がっている論文について「出し直した方がいいのではないか」と述べた。
こうした流れを受けて、理研は3月11日に「STAP細胞論文の調査について」と題したコメントをウェブサイト上で発表した。ただ現時点では、疑惑を拭い去るには程遠い内容と言わざるを得ない。
まず、小保方さんの博士論文の画像がSTAP細胞論文に「転用」されたとの指摘は「調査を開始した」段階だという。これ以外の疑義についても調査が継続中で、「最終的な報告にはまだしばらく時間を要する予定」だ。
その一方で「論文の信頼性、研究倫理の観点」から、論文の取り下げを視野に入れて検討している点も明らかにした。ただ複数の疑惑があるとはいえ、今はあくまでも調査中で「シロクロ」の決着はついていない。具体的な説明や調査結果の公表がない段階での「取り下げ検討」は、どうも釈然としない。
「朝ズバ!」の中で元村記者は、一度発表した論文を撤回するのは研究者にとって相当のダメージになると説明した。小保方さんをはじめ共著者の経歴を大きく損なう恐れがある。共著者の間でも、若山教授は取り下げを望んでいるが、米ハーバード大学のチャールズ・バカンディ教授は「撤回する理由はない」と反対の構えで、意見が割れているようだ。
理研では3月14日、メディアに向けた経過報告会を開く予定だ。その席で詳しい調査結果が発表されるかもしれない。いまだに「雲隠れ状態」の小保方さんの口から、疑惑を打ち消す説明が出てくるだろうか。