日本各地で火山活動が活発化する中、「日本のシンボル」富士山の噴火が懸念されている。「宝永の大噴火」から300年間、沈黙を続けているものの、専門家らは「いつ噴火してもおかしくない」と口をそろえる。
噴火した場合の被害は首都圏にも及ぶとみられ、街は空から降り注ぐ「火山灰」に包まれる。だが、北関東などさらに遠いエリアでも油断はできない。火山灰は積もる量が数ミリ単位であっても、さまざまな影響が出る可能性があるのだ。
「降灰」の影響で交通機関はマヒ
2014年2月、山梨県、静岡県、神奈川県と国などで構成する「富士山火山防止対策協議会」は初の広域避難計画をまとめた。1707年の宝永噴火と同レベルの噴火が富士山で起きた場合、溶岩流は山梨、静岡の14市町村に達し、避難対象者は計75万人にのぼるとした。
溶岩流よりも広く影響を及ぼすのが「降灰」だ。火山灰は噴火によって火口から空中に噴出された、ガラス質の成分を含む直径2mm以下の放出物のことで、「30cm」以上堆積した場合、雨が降ると重みで木造家屋が倒壊する可能性がある。計画書では、健康被害が指摘される堆積「2cm以上」の影響人数は最多の神奈川県で約872万3000人としていた。
富士山噴火の火山灰は、風にのって首都圏一帯にも届くとみられている。2004年に内閣府が作成した「富士山火山防災マップ」では、東京から千葉一帯にかけて2~10cmの降灰を想定している。その場合、新幹線や飛行機の運転取りやめといった交通機関のマヒ、停電や断水などが起き、「陸の孤島」と化すと考えられる。首都圏では今年2月に異例の大雪が大混乱をもたらしたばかりだが、溶けてなくなる雪と違って、処理に手間のかかる火山灰はより厄介だ。
北関東まで被害が広がる
では「2cm未満」の地域は安心かというと、そうではない。数ミリ単位の降灰でさえ、さまざまな影響を及ぼす可能性があるようだ。気象庁の火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長は2014年3月3日、報道番組「深層NEWS」(BS日テレ)の中で「火山灰が5ミリ積もっただけで、車は坂道を上れなくなる。高速道路では、深刻な渋滞が起きる」と指摘した。
気象庁地震火山部火山課の長谷川嘉彦氏は「交通機関ではミリ単位の堆積でも障害が出ると想定できます。車の場合はスリップしてしまうことが多いと思いますが、灰が舞い上がって視界不良になるケースや、エンジンが灰を吸い込んで故障してしまうケースも考えられます」と話す。
過去の事例がそれを裏付ける。1980年に米ワシントン州のセント・ヘレンズ山が噴火した際には、堆積厚6mmで高速道路が2日間にわたり完全閉鎖された。視界不良や自動車のエンジン故障が主な原因だったそうだ。また、1995年には、鹿児島県の桜島でも堆積厚7~8mmで九州自動車道が高速道として機能しなくなり、降灰除去のために約1日通行止めとなった。
健康被害はどうだろうか。長谷川氏は「舞い上がった灰を吸って、呼吸器官に影響が出ることはあるでしょう。セント・ヘレンズ山の例では、6mm積もった段階で鼻やのど、眼の異常を訴える治療患者が増えました」という。
内閣府の防災マップでは2cm未満の範囲は示されていない。これを数ミリまで考慮すると、富士山噴火のもたらす影響の大きさがさらに甚大なものになる。長谷川氏はミリ単位で積もるところは、風向きによって変わるものの茨城県など北関東の方まで及ぶと想定する。富士山周辺の被害と比べれば軽いものの、油断はできなそうだ。