電源開発(Jパワー)が青森県大間町に建設中の大間原発について、北海道函館市の工藤寿樹市長は2014年2月12日の記者会見で、同社と政府に建設差し止めと原子炉設置許可の無効確認を求める訴訟を3月中にも東京地裁に起こすと正式に表明した。原発をめぐり、自治体が政府と電力会社を相手に建設差し止めなどを求める訴訟を起こすのは全国で初めて。
大間原発は東京電力の福島第1原発事故後に建設工事を休止したが、2012年10月に工事を再開している。今後の司法判断しだいでは、原発の新設・増設をめぐる安倍政権のエネルギー政策に影響を与えるのは必至だ。
半径50キロ圏内の人口は北海道が青森の4倍
訴状案によると、函館市は(1)福島原発事故以前の審査指針類によって許可された大間原発は、原子力規制委員会の新規制基準による安全性の審査がなされていない、(2)仮に新規制基準で安全と判断されたとしても、福島原発事故の原因を解明していない中で作成された新規制基準では安全確保は不十分だ――として、政府が電源開発に大間原発の建設停止を命じるよう求めている。
函館市によると、同市と大間原発は津軽海峡を挟み、最短で23キロ。大間原発から半径50キロ圏内の人口は、青森県の9万人に対して、北海道は37万人で、「(重大な事故の場合)北海道の方が、より大きな影響を受ける」(工藤市長)ことになる。
市職員出身の工藤市長は2011年4月に当選。これまで「福島原発事故のすさまじさを見て、原発の安全神話に疑問を抱いた。少なくとも、原発を新たに建設することは当分凍結すべきだ」と主張し、政府と電源開発に大間原発の無期限凍結を要請してきた。しかし、「(政府は)北海道側に一切の説明も意見を聴くこともなく、一方的に大間原発の建設再開を容認し、通告に来ただけ」と憤る。
工藤市長は12日の記者会見で「国や電源開発に建設差し止め要請を何回も行ってきたが、明確な回答は得られなかった」と述べ、提訴を決断した理由を説明した。
函館市が大間原発の建設中止を求めるには、特に他にない理由もある。それは大間原発の核燃料が国内外でこれまで稼動した従来型の原発と異なり、「フルMOX」と呼ばれる世界初の原発だからだ。フルMOXは、使用済み核燃料を再処理して取り出すプルトニウムをウランに混ぜて作るMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を全炉心で用いるため、国内で行き場のないプルトニウムの消費が進み、核燃料サイクルを推進すると期待されている。しかし、専門家の間では「フルMOXは緊急時に原子炉の制御棒が効きにくく、炉内の圧力が上昇しやすい」との指摘がある。
安倍政権のエネルギー政策に影響必至
電源開発の北村雅良社長は「最新鋭の技術を適用した安全性、信頼性の高い発電所で、核燃料サイクルの一翼を担う重要な発電所だ」と、主張してきているが、工藤市長は「最も危険といわれるフルMOXを世界で初めてやるのに説明もない。そんないいかげんな話はない」と批判した。
2008年5月に着工した大間原発は、中国電力の島根原発3号機、東京電力の東通原発1号機と並び、国内で建設中の原発3基のうちの一つだ。電源開発は当初、2014年11月の営業運転開始を目指していたが、「運転開始時期については今後、具体的な工事状況等を踏まえ、検討していく」としている。
北海道では函館市だけでなく、道内35しで組織する「北海道市長会」も2012年11月、(1)原発事故を教訓に、将来的に原子力に過度に依存することのないようエネルギー政策を見直す、(2)函館市や北斗市をはじめとする北海道内の自治体等への十分な説明もなく再開された大間原発の建設工事は中止する――ことを政府に要請している。
安倍首相は原発の新増設について「現在のところ全く想定していない」としているが、「建設中の大間原発や、建設がほぼ終わっている島根原発3号機は新増設のうちには入らないと思う」と述べ、将来的に電力会社から運転に向けた申請が出れば、原子力規制委員会で審査していく方針だ。建設中の原発をめぐる自治体初の差し止め訴訟が、原子力行政に一石を投じるのは間違いない