物議を醸している日本テレビ系連続ドラマ「明日、ママがいない」第6話が、2014年2月20日に放送された。
関係団体から「子どもが傷つく」といった指摘を受け、日本テレビは「内容を見直す」と表明していた。これで一件落着にみえたが、6話の内容が「指摘」に対する皮肉ではないかと話題に。「明日ママ」を見た人たちの間で盛り上がっている。
「施設の子が怖いと思われる」事件を起こしたロッカーを避ける
6話は、児童養護施設「コガモの家」で毎日おいしいご飯を作り、子どもたちから慕われているロッカー(三浦翔平さん)が、道端で女性に暴力を振るおうとしている男性を殴ってしまい、警察に逮捕される場面から始まった。
ロッカーは釈放されたが、施設の子どもたちは事情を知らず、「暴力は最低だ」「施設の子どもが怖いと思われる」などとして、ロッカーを避けるようになる。ポスト(芦田愛菜さん)とオツボネ(大後寿々花さん)だけは、「ロッカーが理由なく人を殴るはずがない」と味方をしていた。
子どもたちは「ロッカーは、母親が父親を殺したことで、施設に預けられることになった」と知ったが、ロッカーは自ら窓ガラスにスプレーで「ぼくがころした」と書いた。
施設長の魔王(三上博史さん)はポストに、それはロッカーの勘違いだと教える。母親を殴りつける父親をロッカーが押し飛ばしたことで死んだと思っているのだが、実はその後起き上がってきた父親を母親が刺し殺していたのだ。ロッカーは今日まで母親が自分の罪をかぶったと思い込んでいた。
魔王が施設に帰ってくると、子どもたちはロッカーの荷物を魔王に突き付けた。「人殺しはコガモの家を出て行ってほしい」というのだ。
それを聞いた魔王は「全員、枕を取りに行け!」と命令し、部屋から枕を取ってきた子どもたちを食堂に座らせて話を始めた。
「あいつが父親を、というのは、あいつ自身の誤解だ。あいつは母親が自分をかばってつかまった、そう思っていただけだ」
そこまで話すと、ピア美(桜田ひよりさん)が「だから何?ロッカーがこの前暴力をふるったのは事実だし、私たちがそういう目で見られるのは変わりない」と口答えした。
「価値観が固定され、自分が正しいと声を荒げて攻撃してくる大人もいる」
子どもたちが心変わりしないのを見て、魔王はこう続けた。
「持ってる枕をその胸に抱きなさい。お前たちは何におびえている?お前たちは世間から白い目で見られたくない、そういう風におびえているのか?だからそうなる原因になるかもしれないあいつを排除する、そういうことなんだな。それは表面的な考え方じゃないのか?もう一度、この状況を胸に入れて、考えることをしなさい。お前たち自身が知るあいつは本当にそうなのか?乱暴者でひどい人間か?そんな風にお前たちはあいつから一度でもそういう行為や圧力を受けたことがあんのか?」
子どもたちは首を横に振る。
「ならばなぜかばおうとしない?世の中がそういう目で見るならば、世の中に向けて、あいつはそんな人間じゃないって、なぜ戦おうとしない?あなたたちはあの人のことを知らないんだって、一人一人伝えようと、そう戦おうと、なぜ思わない?臭いものにふたをして、自分とは関係ない、それで終わらせるつもりか?大人ならわかる。大人の中には価値観が固定され、自分が受け入れられないものを全て否定し、自分が正しいと、声を荒げて攻撃してくる者もいる。それは胸にクッションを持たないからだ。わかるか?そんな大人になったらおしまいだぞ?話し合いすらできないモンスターになる。だがお前たちは子どもだ、まだ間に合うんだ。一度心に受けとめるクッションを、情緒を持ちなさい。この世界には、残念だが目を背けたくなるようなひどい事件や、辛い出来事が実際に起こる。だがそれを自分とは関係ない、関わりたくないとシャッターを閉めてはいけない。歯を食いしばって一度心に受けとめ、何がひどいのか、何が悲しいのか、なぜこんなことになってしまうのか、そう考えることが必要なんだ。お前たちはかわいそうか?本当にそうか?両親がいても、毎日のように言い争いをしている、その氷のような世界にいる子どもたちはどうだ。両親が揃ってるくせにと冷たく突き放すのか?もっと辛い子もたくさんいる。誰かに話したくても言えない子だっている。それでもお前たちは世界で自分が一番かわいそうだと思いたいのか?違うだろ。うんざりだろ。上から目線でかわいそうだなんて思われることに。何がわかるってんだ。冗談じゃない。かわいそうだと思うやつこそがかわいそうなんだ。つまらん偽善者になるな。つまらん大人になるな。つまらん人間になるな。お前たちが辛い境遇にあるというのなら、その分人の痛みがわかるんじゃないのか。寂しい時、そばに寄り添って欲しい、自分がそうして欲しいことをなぜしようとしない。お前たちが心にクッションを持てないというのなら、これからたとえどんな条件のいい里親が来たとしても、実の親が迎えに来たとしても、俺はこの家からお前たちを出さんぞ!絶対に出さん」
魔王は、ロッカーが子どもたちの特徴をまとめたノートをみんなに見せた。子どもたちは涙を流し、帰ってきたロッカーに「ごめんなさい」と謝罪、ロッカーは笑顔でみんなを許した――という内容だった。
「心にクッションを持たない大人たち」はクレーマーとスポンサー?
子どもたちから「恐怖の存在」と思われている魔王の優しさが垣間見えた、心温まるストーリーだったが、視聴者の一部は魔王の言葉に違う意図を感じたようだ。
ネット上では、放送中から「子供への説教の体でドラマにクレームつけた奴への反論ww」「視点を変えてみるとクレーム入れた心にクッションを持たない大人たちに言ってるよね」「魔王の演説は子供達を通り越して、クレームだした人たちに向けて言ってます。(あっ、急に降りたスポンサーもね)」など、「クレームに対する皮肉ではないか」という推測が飛び交った。
「明日、ママがいない」については、1話放送後から、児童養護施設の関係者らが「施設がこんな暗い所だと思われる」「子供が変なあだ名でいじめられたらどうするのか」など批判の声が上がっていた。
赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」で知られる慈恵病院が「虐待されて施設に入所する子がさらに傷つく可能性がある」「1話で子どもたちがペット扱いをされたことが施設の子や里子の名誉を傷つける」などとして日本テレビに放送中止などを求める抗議文書を送ったほか、全国児童養護施設協議会も「放送終了後に自傷行為に及んだ児童がいる」「施設の児童が『ポスト!』と呼びつけられた」という事例があったと報告した。日本テレビはこうした声を受け、2月4日に「内容を見直す」と表明していた。
今回の「魔王」の力のこもった語りかけが、「見直した結果のセリフ」なのかどうかは分かっていない。