作曲家の佐村河内守(さむらごうち・まもる)さん(50)が自らの名義で発表した曲を実際は他人に作曲させていた問題は、その活動を報じたメディアにも及びつつある。
テレビ局の多くがニュース番組で「おわび」し、新聞社も記事で過去の経緯を説明した。特に、朝日新聞は少なくとも過去の2本の記事を削除することになった。
テレビ朝日「私たちはこの事実を今日の発表で知ることになりました」
問題が明らかになった2014年2月5日朝の段階で早速「おわび」したのはNHKだ。NHKは、NHKスペシャルで佐村河内さんを特集した以外に、朝の情報番組「あさイチ」で12年から13年にかけて3回にわたって取り上げていた。2月5日の番組では、
「取材や制作の過程で検討やチェックを行いましたが、本人が作曲していないことに気づくことができませんでした。視聴者の皆様や番組の取材で協力していただいた方々などに深くおわび申し上げます」
と陳謝した。TBSも午前の全国ニュースで、アナウンサーが同社広報部の
「いくつかの番組で、佐村河内氏について本人が作曲をしているものとして紹介してまいりました。視聴者の皆さま、関係者の皆さまにおわびします」
というコメントを読み上げた。テレビ朝日は2010年8月に、昼の情報番組「ワイド!スクランブル」の「山本晋也の人間一滴」のコーナーで取り上げており、キャスターが
「私たちはこの事実を今日の発表で知ることになりました。視聴者の皆様に深くおわび申し上げます」
と謝罪。日本テレビの夕方のニュース「news every.」では13年6月に取り上げた。やはりキャスターが
「当時、別の人物が作曲していることに気づくことができませんでした。視聴者の皆様におわびいたします」
と述べた。
フジテレビは経緯の説明にとどめる
方向性が少し違ったのがフジテレビで、13年に2回とりあげた「スーパーニュース」では、
「当時は、佐村河内氏の楽曲の別の作曲家がかかわっていたことをうかがわせる状況などはなく、作品は本人によるものという前提で取材・放送したものです」
と、経緯の説明にとどめた。
新聞と通信社は、過去に掲載した記事について説明する記事は掲載しているが、「おわび」は少数派で、
「昨年(編注:2013年)8月11日掲載の大型ルポ『ストーリー』では、佐村河内さんは自身の創作について『頭の中で鳴った音を五線譜にはき出す作業』などと語っていた」(毎日新聞、08年に広島版で初めて記事化し、大阪本社版夕刊芸能面や、東京本社朝刊などでインタビュー記事を掲載)といった具合だ。
「メールによるインタビューで記者が作曲方法を尋ねると、佐村河内さんは『非常に抽象的で、非論理的であり、言語化するのが大変困難』などと回答していた」(読売新聞、11年のCD発売やCDの売り上げ記録について記事化)
「佐村河内さんは取材に対し、この曲を作った理由を『被爆2世として、作曲家としての責任を感じたから』などと話していた」(共同通信、11年にCD発売について配信)
「2010年8月に佐村河内さんの寄稿文を掲載したほか、『交響曲第1番』のCDがヒットした背景などを記事で取り上げた」(日本経済新聞)
朝日は「ひと」欄と論評記事を削除
際立つのが朝日新聞の対応で、2月6日の朝刊に「おわび」を掲載し、
「朝日新聞としても取材の過程で気づくことができませんでした。佐村河内さんに関して事実と異なる内容を報じてきたことを読者の皆様におわびします」
と陳謝した。過去の記事についても
「さらに事実関係の確認を続けていますが、2008年2月11日付朝刊に掲載した『ひと』欄の『聴力を失ってから15の作品を生み出した作曲家』や、昨年7月29日付夕刊に掲載した『被災地へ祈りのソナタ 全聾(ろう)の作曲家・佐村河内守が新作』など佐村河内さんについて論評した記事を削除します」
と、記事を取り消す措置をとった。08年の「ひと」では、佐村河内さんのことを
「『作曲家は命を削ってでも人のために音楽を作っていくものだと、音を失って気づかされた』。苦行僧のように音を探し続けている」
と称賛していた。今回の件で、過去の記事が「誤報」になると判断したとみられる。
J-CASTニュースでも、13年4月に佐村河内さんがNHKスペシャルで特集されたことや作品が異例の売り上げを記録したことを記事として紹介している。また、12年11月にはテレビウォッチのコーナー「NHKここに注目!」で、佐村河内さんを特集したNHKスペシャルについて記事にしていた。