結婚披露宴に、ムードを盛り上げる音楽は欠かせない。新郎新婦が会場の入退場時やキャンドルサービス、ケーキ入刀時の演出にと、晴れの舞台のために自分たちで選んだお気に入りの曲を用意するケースは少なくないだろう。
だが、披露宴の最中にBGMとして楽曲を使うと、場合によっては著作権に絡んで使用料の支払いが生じることになる。
許諾契約結んだ式場で市販CDの曲流すなら「無料」
日本音楽著作権協会(JASRAC)のウェブサイトには、各種施設で音楽を利用する際の手続きについて書かれている。結婚式場は「ホテル、旅館、民宿などの宿泊施設」に含まれていた。楽曲の生演奏、CDやカラオケを流す、自動演奏の楽器を使うといった演奏方法の違いや、場所の広さや座席数といった使用環境の違いに応じて、料金が算出されている。この支払規定に沿って、式場側とJASRACの間で包括的、あるいは曲ごとに許諾契約が交わされる。
では、例えば新郎新婦が、披露宴でBGMを流す場合に市販のCD数枚を式場に持参して、「入場時にはこのCDの1曲目、乾杯の後は別のCDの4曲目……」と指定した場合、それぞれの楽曲演奏に著作権使用料は発生するのか。JASRACに取材すると、「許諾契約を結んでいる式場での使用であれば、個人が市販のCDを持ち込んで披露宴で流しても、(JASRACに対する個人の)支払いは生じません」と回答した。逆に許諾を得ていない会場での使用は、著作権使用料が発生する。とは言え、大手のホテルや式場であれば、まず契約していると考えてよさそうだ
一方で必ず著作権使用料が発生するのは、自分の好みの楽曲をあちこちから集めて複製し、言わば披露宴用の「オリジナルCD」を製作したような場合だ。また、新郎新婦の誕生から出会い、結婚までを映像化した「紹介ビデオ」上でBGMとして使用する楽曲も、同様に扱われるという。いずれのケースも著作権だけでなく、複製する際に生じる「著作隣接権」もクリアしなければならない。
著作権使用料はJASRACが管轄しており、複製物を「製造」する前にオンラインや窓口で申請するのが原則だ。BGM使用を目的に楽曲を複製する際の料金は、製造数によって単価が変わるが、例えば1曲5分未満で製造数9枚までなら、1曲あたり200円となる。
ところが問題は著作隣接権だ。これは各レコード会社との交渉となるが、必ずしも許諾を得られるわけではない。仮に申請が却下されれば、複製は不可能となる。認められた場合でも、使用料はJASRACに支払う金額よりも高額だ。
オンライン上で著作権、著作隣接権使用料支払う仕組み
音楽特定利用促進機構(ISUM)は、「複製版」の著作権と著作隣接権使用料の支払いをスムーズにするため、オンライン処理の仕組みのテスト運用を開始した。2014年1月20日付の発表資料によると、現段階ではレコード協会を通して許諾を得た約600曲が対象で、本格運用は4月1日開始の予定だ。利用料金は、まず著作隣接権使用料が1曲あたり2000円で、これに製造数を乗じた額になる。著作権使用料は5分未満の曲なら1曲200円で、著作隣接権と著作権の料金を足した額の1割が「システム利用料」として加算される。
例えば5分未満の曲を5曲使用し、複製をふたつ作った場合、著作隣接権使用料は2万円、著作権使用料に1000円、システム利用料が2100円で合計2万3100円プラス消費税となる。
ISUMのウェブサイトには、披露宴での楽曲使用がなぜ「私的利用」の範囲を超えるかについて説明がある。家族や家庭内を含め「自分が楽しむ」というのが「私的」の前提だが、「ブライダルの現場は、不特定多数の人が集まる場」「ご祝儀は入場料にあたる解釈」との理由から、私的利用の枠に収まらないというわけだ。仮に著作権や著作隣接権を侵害した場合は「10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金」、法人が著作権等(著作者人格権を除く)を侵害すると「3億円以下の罰金」と規定されているという。