NHKの籾井勝人新会長が就任会見で、いわゆる従軍慰安婦問題について「戦争地域にはどこに国にもあったと思う」と述べた。さらに「日本だけが強制連行したみたいなことを言われている」と続け、韓国側の度重なる「謝罪と賠償」の主張に疑問を呈した。
この発言に、日韓のメディアはただちに反応。またインターネット上では、公共放送のトップとしての資質を疑う人が少なくない。
朝日新聞は多くの紙面を割いて取り上げた
NHK広報局が発表した籾井会長の2014年1月25日の会見要旨を見ると、従軍慰安婦問題について「会長職としてのコメントは控えたいが」と前置きした後で「どこの国にもあったということではないかと思う。それは、戦争をしている地域ということだ」と述べていた。慰安婦そのものは悪いと断言しつつも「日本だけが強制連行したみたいなことを言われているから、話がややこしい」と続いている。
1月26日付の朝日新聞朝刊は、籾井会長と記者とのやり取りを詳しく伝えた。「どこの国にもあった」について具体的に問われると、「韓国だけにあったと思っているのか…ドイツやフランスにはなかったと言えるのか。ヨーロッパはどこでもあった」と国名を挙げたそうだ。さらに韓国については「お金をよこせ、補償しろと言っているわけだが、日韓条約ですべて解決していることをなぜ蒸し返すのか。おかしい」と反発していた。記者から「公式の会見だ」と指摘されると「では全部取り消します」と返答。会長の立場では答えられないが、それではノーコメントばかりになるので「会長の職はさておき」と前置きして話したのだと説明した。
主要紙の中でもこの件に多くの紙面を割いた朝日新聞は、「中立・公平性、疑問の声」という見出しで、慰安婦発言は「籾井氏の擁立で存在感を隠さなかった安倍政権の主張と重なる発言も少なくない」と指摘。閣僚のひとりが「メディアのトップとしてあり得ない失言で怒りを覚える。即刻辞任すべきだ」と話したと紹介した。同日付の毎日新聞朝刊は、「NHK内部からは会長の資質を疑問視する声が出始めている」と書いている。産経新聞は「NHK新会長が韓国批判」との見出しを付け、「NHKの主張として誤解されかねない」との職員のコメントを取り上げた。
堀潤氏「これがアジア最大のジャーナリズム機関のトップの発言なのか」
韓国の主要メディアも、大きく報じている。朝鮮日報電子版は1月26日、朝日新聞などの報道を引用する形で籾井会長の発言を伝えた。また籾井会長が選出される経緯について、「会長就任には安倍政権の意向が強く作用したと言われている」との趣旨を書いている。聯合ニュースは東京発として、慰安婦に関する発言が「安倍政権の主張に似た内容」と紹介。2013年11月、NHK経営委員に安倍首相の考え方に近いとされる5人が選ばれ、その後で籾井会長が選出されたという日本メディアの解説を載せた。
ツイッターを見ると、日韓とも籾井発言には関心が高い。弁護士の落合洋司氏は「従軍慰安婦、どこにでもあった」との1文について「こんなのばかり出てくるな」とひとこと。続けざまに「NHK新会長には、沈黙は金、という言葉を贈っておこう。もう、もたないかもだが」と投稿した。元NHKアナウンサーの堀潤氏は朝日新聞を引用し、「このやり取りは、ぜひ、皆さんにしっかり読んでもらえたら。これがアジア最大のジャーナリズム機関のトップの発言なのか…」とつぶやいた。会長の資質を問う批判的な意見が多いが、半面インターネット上には「正しい発言」「日本人としてまっとう」ととらえる向きもある。
また韓国のユーザーは「あんな人物が日本の公共放送の会長なのか」「安倍首相と一緒だ。真摯な謝罪を求める」「日本政府に続いてNHK会長までもが妄言。慰安婦として被害を受けた方々が否定されることはあってはならない」と、反発を隠さない。