安倍晋三首相と沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事が2013年12月25日会談し、仲井真氏が要請していた米軍基地の負担軽減策や振興策に対する政府の回答を伝えた。ほぼ「満額回答」に近い答えに、仲井真氏は「驚くべき立派な内容」と異例の反応だ。
特に注目すべきは振興予算の額で、今後7年間にわたって毎年3000億円規模を計上する方針を表明。振興予算はここ10年ほど減少傾向が続いてきたが、民主党政権下で増加に転じていた。この巨大予算、どのような使い道が想定されているのか。
仲井真知事「これはいい正月になるな、というのが私の実感」
安倍首相が仲井真氏に伝えた負担軽減策の骨子は、(1)普天間飛行場の5年以内の運用停止や牧港補給地区の7年以内の全面返還について、防衛省内に作業チームをつくって検討する(2)オスプレイの訓練の半分を県外に移転する(3)日米地位協定に関連して、基地内の環境保全に関連する立ち入り調査を行えるよう米側と交渉に入ることで合意した、というもの。これは仲井真氏が12月17日の沖縄政策協議会で安倍首相に手渡した要望書の内容に沿ったものだ。
振興予算については、要望書では「(概算要求通りの)3408億円の総額確保」と「(2021年度まで続く)振興計画期間内3000億円規模の予算確保」を求めていた。
これに対して、12月24日に閣議決定した14年度の政府予算案では、概算要求を52億円上回る3460億円を計上。加えて、安倍首相は仲井真氏の前で「毎年3000億円台を確保する」ことを「お約束をいたします」と明言した。要求以上の額を提示した形で、仲井真氏は
「有史以来の予算です。有史以来の税制。有史以来というのは少しアレかもしれない。それでも、それぐらいの気持ちで…」
「これはいい正月になるな、というのが私の実感」
と満足げだった。
14年度予算案の内訳は、沖縄県の予算に組み込まれる「沖縄振興交付金」が前年度比9%増の1759億円。国の直轄事業も21.9%増の1692億円に増えた。直轄事業の中でも、那覇空港第2滑走路増設事業の予算を130億円から330億円に大幅に増やした。この330億円は、15年度以降も交付金とは「別枠」の直轄事業の中で確保する方針だ。
10年ほど減少続いたが民主党政権で増加に転じる
沖縄振興予算は1998年度の4713億円をピークに減少が続き、11年度には2301億円まで下がった。だが、民主党政権下の12年度には使い道の広い「沖縄振興特別推進交付金」を創設するなどして2937億円と増加に転じ、自民党に政権が戻った13年度も3001億円と増加を続けていた。
安倍首相が仲井真氏にした「約束」によると、13年度と同水準の沖縄関連の予算が21年度まで計上されるとみられる。つまり、13年度の会計を見ると、交付金がどのような形で使われるか、ある程度想定できるとも言える。
13年度の沖縄県の当初予算ベースでは歳入が6988億2500万円で、そのうち政府からの沖縄振興一括交付金が1613億1100万円。歳入の23.1%を占める。この交付金は沖縄振興特別推進交付金(ソフト交付金)803億円と沖縄振興公共投資交付金(ハード交付金)810億円に分かれている。
ソフト交付金の内訳を見ると、沖縄離島住民等交通コスト負担軽減事業(17.9億円)、沖縄型クラウド基盤構築事業(38.1億円)、沖縄観光国際化ビッグバン事業(23.5億円)といった離島振興、IT、観光への投資が目立つ。また、農林水産物を本土に出荷する際の運賃を補助する「農林水産物流通条件不利性解消事業」にも22.6億円が投じられている。
ハード交付金の内訳は、その名前からも想像できるように、最も多いのが道路で262.9億円。主に石垣島の電柱の地下化に費やされている。
地元紙は「『厚遇』は印象操作だ」と主張
もっとも、今回の予算に対して地元メディアは批判的で、沖縄タイムズの社説では「空手形」を警戒する。
「首相の回答は、文書ではなく、すべて口頭だった。現時点では何も決められず、文書にすると政府が縛られるからだろう。これまでも閣議決定や総理大臣談話でさえほごにされているというのに、実現の担保がない『口約束』というしかない」
また、琉球新報は「『厚遇』は印象操作だ 基地強要の正当化やめよ」と題して
「戦後通算で見ると沖縄への1人当たり財政援助額は全国平均の6割にすぎず、むしろ「冷遇」だった。復帰後の沖縄への高率補助は戦中戦後の『償い』の意味があったが、今や露骨に基地押し付けの材料だ」
と訴えた。