南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に当たる韓国軍に対し、自衛隊が弾薬1万発を提供したことが波紋を広げている。
そもそも、なぜ韓国軍が「SOS」を出す事態になったのか。2011年に独立したばかりの南スーダンでは、2013年12月15日以降、キール大統領率いる政府軍と、マシャール前副大統領を支持する反乱軍が各地で戦闘を続けている。民族対立も絡んでいるだけに、現地では残酷な殺戮が横行しているとも報じられる。
1万5000人もの避難民抱える危険な状況
特に東部ジョングレイ州は、反乱軍がPKO部隊の基地やヘリなどを相次ぎ襲撃、PKO部隊のインド兵に死者が出るなど極めて緊迫した状況だ。21日には民間人救出のため派遣された米軍のオスプレイも被弾、退避を余儀なくされた。
州都ボルに駐屯する韓国兵約280人は、まさにこうした状況の真っただ中に置かれている。しかも、その多くは復興支援を目的とした工兵たちだ。
「自分たちの身を守る、あるいは脱出する、というだけなら十分な装備があるのだろうが、基地には1万5000人もの避難民たちが逃げ込んできている。となれば、かなり広い範囲を守らねばならない」
軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は、韓国軍が支援を求めた背景についてそう解説する。小野寺五典防衛相は24日、「人道的にすぐに手当てが必要な状況だった」と説明したのも、無理からぬ話ではある。
日韓関係改善のシグナル?
とはいえ、多くのメディアはそうした現地事情よりも、安倍政権の「裏」の意図の方に関心が強い。
たとえば朴大統領の外交ブレーン役も務める韓国・世宗研究所の陳昌洙氏は聯合ニュースに対し、「国際社会で活動する際には、韓国と日本がお互いに助け合うことが必要だということを見せてくれた」と述べている。今回の弾薬提供が、日韓和解のためのシグナルでは、との見方を暗に示した形だ。
一方、安倍政権がこれを利用して「武器輸出三原則」を骨抜きにし、「積極的平和主義」の拡大を目指すのでは、との懸念は特に大きい。
「今回は武器輸出三原則の『例外』だというが、これまで例外とされてきたのは中曽根政権時代の米国への技術提供、小泉政権時代の弾道ミサイル防衛システムの共同開発、と2つだけ。そこに3つ目の例外が作られたため、『なし崩し』にされるのでは、との懸念が出ているのです」(上述・神浦氏)
韓国政府「あくまでも予備」
特にいらだちを隠さないのが、支援を受けた当の韓国だ。19日には日本の集団的自衛権の行使容認に「深刻な憂慮」を示す国会決議をしたばかり。よりにもよってその直後に、その日本から弾をもらうことで、日本の「軍拡」に塩を送る格好になってしまったのだから、面白いはずがない。
韓国国防省は24日、そもそも銃弾は不足していなかったとして、日本からの提供はあくまでも、事態の長期化に備えた「予備」だと突っ張ってみせた。また外務省も、「国連を通じて弾薬の支援を受けた。それ以上でもそれ以下でもない」と冷淡な態度だ。
メディアからも、不満の声が漏れる。韓国の大手通信社ニューシースは、24日付のニューヨーク特派員コラムの中で政府の対応を批判しているが、その表現は非常に強烈だ。
「過去の日本を人間に例えるなら、何十年も町内でレイプと殺人を繰り返し、他人の財産を奪って奴隷として働かせていたような『極悪非道』の者である。(中略)一生保護観察しなければならないような要注意人物に武器を持たせたばかりか、それに私たちが『弾丸をちょっと貸してくれ』と言い出したのだから、世論に火がつくのも当然だ」