鉄路をつなごうJR山田線【岩手・大槌町から】(22)

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意見を発表する右から大槌高校2年の山﨑丈さん、阿部美優さん、大槌高校教諭の高橋洋先生=いずれも2013年11月9日、宮古市の岩手県立大学宮古短期大学部
意見を発表する右から大槌高校2年の山﨑丈さん、
阿部美優さん、大槌高校教諭の高橋洋先生
=いずれも2013年11月9日、宮古市の岩手県立大学宮古短期大学部

   震災で寸断された鉄路の完全復旧か、BRT(バス高速輸送システム)による復旧か――。被災各地で論議を呼ぶ中、JR東日本による山田線の鉄路をつなごうと、沿線4市町によるシンポジウムが2013年11月9日、岩手県宮古市内の岩手県立大学宮古短期大学部で開かれた。住民代表の発表で、岩手県立大槌高校の2年生が早期復旧の必要性を訴えた。山田線の不通で高校への進路選択が制限されるという事態が起きている。「小中学校の後輩には経験させたくない」。高校生の主張は参加者の共感を呼んだ。


   シンポジウムは、岩手県三陸沿岸の大槌町と宮古市、釜石市、山田町が主催し、「みんなで考えるJR山田線の復旧」をテーマにして行われた。

   基調講演があり、東京工業大学大学院教授の屋井鉄雄氏が「地域における鉄道の役割を見直そう」、交通ジャーナリストの鈴木文彦氏が「鉄道を支える地域のちから」と、それぞれ題して講演した。


   基調講演後、4市町による住民代表による発表があった。宮古市の宮古駅前総合観光案内所の坂本李奈さんは「鉄道があるまちづくりが復興の基本」と強調した。釜石市の鵜住居地区復興まちづくり協議会の大町元晴さんは「震災時、鉄道は第二の防波堤の役割を果たした。復旧したら、使う努力、乗る努力をしたい」と述べた。山田町の木下志き子さんは「山田線は生活の一部だった。車と鉄道の共存を考えよう」と提案した。

   大槌町からは大槌高校2年の山﨑丈(じょう)さんと阿部美優(みゆ)さん、それに指導した大槌高校教諭の高橋洋先生が登壇し、JR山田線の不通で、高校への進路選択が制限されている実情を話した。


会場を埋めた参加者は復旧に向けた「決意宣言」を拍手で採択した
会場を埋めた参加者は復旧に向けた「決意宣言」を拍手で採択した

   JR山田線は、盛岡駅から宮古駅を経由して釜石駅を結んでいる。震災で被災し、宮古駅から釜石駅までの55.4キロが不通になっている。JR東日本がBRTによる仮復旧を提案したのに対し、4市町は、費用と時間を鉄道の本復旧に集中すべき、と拒否した。JR東日本が今春に示した復旧にかかる概算工事費は210億円。原状復旧分が140億円、線路のかさ上げや駅舎の移転に伴う費用が70億円。JR東日本は、この70億円の支援を国に求めている。

(大槌町総合政策課・但木汎)


●大槌高校生の意見発表内容全文

「復旧で進路選択の制限解消を」

   大槌高校の生徒と保護者を対象に、今の公共交通について不便なことはないかを調査した。その結果、様々な意見が出た。通学で、JRの代わりに使っているバス料金の高さ、保護者の送迎の負担、進路選択の制限などが特に多く上げられた。

   私たちは、現在、保護者の車やバスで通学している。バスが使えることはとてもありがたいことだが、JR山田線を利用していたころと比べると、料金が高く、金銭的負担がとても大きい。中には保護者の送迎で通っている生徒もいる。保護者の都合もあるので毎日、同じ時間に送り迎えすることが難しく、日によって、部活動を途中で切り上げたり、校舎が閉まった後、外で1、2時間、送迎の車を待ったりすることがある。

   特に、私たちにとって一番、問題なのは、進路選択の制限だ。JR山田線があれば釜石の高校で商業を学びたかった、大学進学に向けて宮古や釜石の進学校に行きたかった、ラグビー部のある学校に通いたかった、という意見もあった。みんなJR山田線を利用して学校に通う予定だったが、鉄道が使えなくなったことで、自転車で通える学校や、保護者の送り迎えが可能な学校で進路を選択しなければならなくなった。

   今後、JR山田線が復旧しなければ、今の中学生や小学生にも、自分たちと同じ思いをさせてしまうことになる。せめて、今の中学生や小学生には、進路選択の制限がなされないように出来るだけ早く復旧し、鉄道を利用して毎日、通学できる環境を整えてほしいと強く願っている。

   もし、JR山田線が復旧したなら、私たちは高校への通学以外にも多く利用したいと考えている。休日には、内陸に友達と遊びに行くときに使いたいし、進路選択の際、各学校のオープンキャンパスにいく時に使いたい。

   私の周りで宮古短大への進学を希望する友達がいる。釜石から宮古まで鉄道がつながると、大槌の自宅から通学することが出来るが、現段階ではバスで通うことになるため、乗り換えや移動時間の長さ、料金負担の大きさから、進学先を決断することができない。

   私たち高校生にとって、JR山田線は生活に不可欠な交通手段だ。大人になれば車を使えるかもしれないが、移動手段を持たない私たちにとっては鉄道がなくなってしまったことで、改めてその必要性を再確認した。JR山田線が復旧したなら、まず自分たちが積極的に利用し、自分たちの鉄道は自分たちで守っていく、という意識を後輩たちに受け継いで取り組んでいきたい。


連載【岩手・大槌町から】
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